大乱妖花伝
京の都は数年前から慢性的な飢餓に見舞われていた。ある日、ふとしたことから施粥を受ける窮民たちが貴族の乗物に襲いかかった。そのおり、その乗物の気品高い女主の危急を救ったのは二十四、五の若武者水無瀬左京、主は八代将軍足利義政の正室富子であった。富子にはまだ男子がなかった。男子がなければ将軍の跡継ぎは他所に持っていかれる。現に、義政は去年、弟の義視を還俗させて後継者にしようと準備していた。“そなたのような剛い武士がわたしは欲しい”という富子の願いを左京は拒絶していた。この後、大乱が都を包んだ。…歳月は流れて、女将軍の権力をもってしても夢が叶えられることなく、日野富子は死んだ。“一切の罪業を障滅して極楽へ行きたし”と。-赤松牢人の勇士と称えられた水無瀬左京の目を通して描かれた日野富子の世界。