大盗乱世を奔る
永享4年(1430)2月、山城国大道寺村に一人の男児が産まれると同時に捨てられた。当時、貧しい人々の間で流行っていた間引きであった。この男児こそ本編の主人公である伊勢新九郎その人である。したがって、新九郎には生まれ在所も父母の名も分からない。が、いま二十三年後の新九郎は一端の野盗に成長していた。寄る辺もない身の新九郎は、“負けるものか。生きようとする強い心だけが大事なのだ”と、その強運だけを信じた。やがて一歩一歩と階段を上っていった新九郎は、さらにその野望を拡大させていった。そして、その名を北条早雲と改めるや、“関東をわがものにするぞ”とばかり兵を起こし、怒涛のごとく関東へ関東へひた走った。それは文明18年(1486)の秋であった。