多奈川線
改札口を通り、長い階段を上がる。階段の外に緩やかなスロープがあるのを知っている人は少ないだろう。そこにはかつてレモンの木が植えられていたが、今はもうない。上まで続いているので、以前、資材などを搬送するのに使用されたのかもしれない。階段の途中から、瓦屋根が見え、視界が少しずつ広がる。深日の町並みが一望でき、その向こうに大阪湾が見えると、プラットホームだ。今日の淡路島はうっすら霞がかかり、いつもより遠くにあるように見える。海は濃い藍色だ。南海電鉄で海と淡路島がはっきり見える駅はここだけであろう。プラットホームを歩いてベンチに座る。目の前に見える宝樹寺のソメイヨシノは五分咲き。線路をはさんだ向かいには、雑草が茂るプラットホームがある。(中略)電車は春の陽を浴びた緑のトンネルをくぐり抜ける。樹々の葉っぱがきらきら光り、右に流れて行く。その向こうに見える山々には山桜の薄いピンクが灯っている。(本文より)全長2.6キロ、緑あふれるのどかな風景のなか、2両の電車が4駅をつなぐ多奈川線。その沿線にある中学校を舞台に、大人になりかけた少年少女とそれを見守る教師たちによって繰り広げられるさまざまなドラマ。
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