小説 長嶺諸近
平安末期、藤原道長が栄華を誇っていた時代に、対馬、壱岐、九州北部を刀伊の海賊船50隻が襲った「刀伊の入寇」。初めに襲われた對馬国で代々地元の地方文官を務めてきた長嶺諸近は、援軍も来ない中、島の子供たちの命を助けるために捕虜となる。敵の隙をついて逃げ出したものの、家族や島民達は助けられなかった。島に戻った諸近は心無い噂を流され、このままでは生きていても甲斐がないと家族を取り返しに国外脱出を図る。高麗国までたどり着いたものの、官人による違法脱国は重罪。しかし高麗国の通詞の機転により270名の島民たちと共に無事対馬へと帰還する。さらに取り調べを受けた太宰府での太宰権帥 藤原隆家との出会いが諸近の運命を大きく変える。都で藤原道長親子に翻弄された隆家は、諸近の姿を己に重ねいつしか深い友情を結ぶ。しかし、都からの沙汰はなかなか降りず、やがて隆家も京都に戻ることになり、諸近に、「死んだことにして島民を救った長嶺諸近という名前は残し、観世音寺の下僕『隆永』として生きていかないか。男子が生まれれば、私が引き取って育て長嶺の名前を復興させよう」と提案。隆家の深い配慮に名前を捨てて隆永としての新しい道を歩き始めることとなった諸近。やがて妻を得て男子も誕生。約束通り、隆家の元で大切に育てられ、十数年後、再び太宰府に戻った隆家と共に戻ってきた諸近の息子高丸は、その地で元服。長嶺の氏も復活する。