サウンド・ポスト
“Speak English!”ちゃんとしゃべって。メグが大声でそう叫び、崇は口封じのひとことに動けなくなった。今まで、このひとことを何度叫ばれたことだろう。言いがかりをつけてくる客、雇用斡旋所の係員、そして、通りすがりの見知らぬ他人…。しかし、娘のそれには大人が口にするときの悪意は皆無だった。そこにはただ、純粋な懇願だけがあった。その奥底には、意志疎通を求め、会話を、言葉を欲しがっている小さな女の子と、やもめ男ののっぴきならぬ事情と、彼ら親子のただならぬ状況が横たわっていた。叫んだあと、メグはトーチャン、トーチャン、トーチャン、と甘えたようにすり寄ってきた。英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぐ言葉と音楽の物語。