女王の日と雨鬼の国
雨の中には鬼が棲んでいる。古代の賢者が書き遺した言葉は正しかった。
〈区外〉のあちこちで、小学生の子供たちが行方不明になったのは、全て雨降りしきる日であった。
そんな冬の午後、銀座通りを歩いていた通行人の前に、近くのビルから女が落ちて来た。
即死したはずの女は、手をかざした通行人に、上の子供を助けてと言い遺してこと切れる。
怯える少年の前に、雨の中から黒い影が近づき、連れ去ろうとしたとき、通行人が立ち塞がる。
六階分の壁を蛇のように這い登って来たのだ。
「うぬらは“雨鬼”か? ならば忘れはすまい、女王ミスティの名を」
奇怪なる死闘の果てに“雨鬼”たちは逃亡し、ミスティは姿を消した。
敵の正体はわかっていた。彼女の生きていた太古ーー“雨鬼”たちは人間を誘拐し、
気力を失った廃人にして帰還させたのだ。すべての子供たちを。
子供が明日への希望を失った世界は滅びるしかない。それこそが異世界の魔物たちの目的であった。
少年を庇ったミスティも〈区長〉との約束によってトラブルを起こせぬ“安らぎの日々”が続き、苦戦が連続する。
彼女に味方する〈区民〉は老妖術使いと彼が生み出した泥人間(ゴーレム)、そしてドクター・メフィストのみ。
だが、やがて、ミスティがその力を存分にふるえるただ一日ーー“女王の日”がやって来た!