幾筋もの水流、丸い水玉、雫型のしたたり。フーッと息を吐いて、松乃はのみを置いた。-父への崇拝を胸に、のみを握り続けた女彫刻師の生涯。
薬屋敷の沙良、人形芝居の梢、巡礼行脚の千芹。三人の娘たちがさすらいの日々で求めたものはー。
自分はいったい誰なのか。幼いころから名前を変えて生きざるをえなかった一人の男。4人の「記憶」が絡み合い、たどり着く男の真実とはー。重なり合う「記憶」が紡ぎ出す物語。
昭和28年春、一里塚の大榎の下に幼いわが子を置いて両親は去っていく。二人が行き着いた先は多磨全生園だったー。