著者 : ジョン・アプダイク
主人公は1933年生まれ。その容貌から「ウサギ」と呼ばれる彼、ハロルド・アングストロームは、男の本性に忠実な、典型的な中産階級のアメリカ人だった-。『走れウサギ』(1960)からスタートし、『帰ってきたウサギ』(1971)、『金持になったウサギ』(1981)、『さようならウサギ』(1990)と四つの作品で書き継がれた、欲望と悔悟に彩られた「ウサギ」の生涯。20世紀後半の激動の歴史を背景に、執筆期間30余年、5000枚に描かれた人生の真実。本書は、最初で最後の4部作一括刊行となる。井上謙治全訳。
裕福で無垢な白人娘イザベルとスラム育ちの黒人青年トリスタンは、おたがいを一目見た瞬間、恋に落ちた。だがイザベルの父親が二人の関係を認めるわけがない。追跡と恋の逃避行が始まる…。大都会と原始の姿が混在するブラジルを舞台に「トリスタンとイズー伝説」を現代に強烈に甦らせたピュアでエロティックな恋愛小説。
悠々自適の生活を送る五十代半ばのウサギ。だが、心配の種がないわけではない。心臓の持病。息子ネルソンが麻薬でつくった莫大な借金-絶望的になっている嫁のプルーは、すがるような気持でウサギの胸に…。それを知って妻のジャニスは?四十年にわたって書き継がれてきた超大型小説“メガノヴェル”「ウサギ・シリーズ」四部作完結編。
トヨタ自動車の代理店を息子ネルソンに譲り、悠々自適の生活を送っているウサギの姿が描かれている。悠々自適といっても心配の種がないわけではない。ネルソンがドラッグに手を出し、莫大な借金を作ってしまうし、妻のジャニスは外に働きに出たいと言いだす始末。自分自身は心臓に持病を抱えている。女体遍歴に終始したウサギの生涯を飾る最後の輝かしい瞬間は、周囲の状況にたいする絶望から、自暴自棄になった嫁のプルーとのたった一回の情事だった…。「金持になったウサギ」に続いて、シリーズとしては初めて、ピューリッツァー賞連続受賞。
自分を書くことはアメリカを書くことだー本書は、アップダイク自身が新潮文庫のために14の短編を選んだ短編集。ボストンの小さな町にあるスーパーマーケットでの夏の日の出来事「A&P」、ハーヴァード大学の寮生活「キリスト教徒のルームメイトたち」、本邦初訳のベック氏の女性遍歴「オーストラリアとカナダ」、離婚歴の父娘の西部への旅「ネヴァダ」などを収録。自作解説付き。
適当に勤勉で適当に豊か、適当に教養があり適当に健康、そしておしなべて不倫に目がなく、家庭は崩壊寸前-そんなミドルクラスの人々が織りなす出逢いと別れの輪舞曲。アプダイクの不倫小説集。
溌刺と欲望のおもむくままに生きてきたウサギも、すでに中年。胴回りの太さが気になりだし、鏡を覗くこともついぞなくなった。だが、ウサギは今や金持なのだ。『帰ってきたウサギ』では、ウサギはライノタイプの印刷工として働いていたが、その業種が不振になった時期に、うまい具合に義父が死んでくれ、義父の自動車販売業を受け継ぎ、ちゃっかりそこの経営者におさまってしまう。自動車業界は、第一次石油危機に見舞われ、燃費の悪い大きなアメリカ車が敬遠され、日本の車が順調な売れ行きを示している。ウサギは金持なのだ。
ある日、ケント大学に通っている息子のネルソンが、女友達メラニーを連れて家に帰ってくる。彼女を家に泊めるかどうかで一悶着が起こる。古い世代のウサギには、二人の関係がうまく理解できない。やがて、ネルソンの子を身ごもったプルーという女性が出現する。ウサギも結婚以前に妻のジャニスを妊娠させた過去を持つ。ネルソンは親の通った道を確実にたどりつつある。ウサギは完全に枯れきってはいないが、行動よりイマジネーションの世界に生きることが多くなり、死への予感をおぼろげに感じだす年代になったのだ…。
海辺の小さな町イーストウィックに住む3人の魅力的な現代の魔女たち。魔女といっても、いずれも30代の女ざかりで、離婚して子供を抱え、彫刻家、チェロ奏者、新聞記者と自立した生活を送っている。時には小さな魔法で恋のとりもちをしたり、意地悪をしてみたり。そんな3人の前に、いわくありげな中年の独身男が現れて…。女性の優しさと恐ろしさを映しだす大人のための現代の寓話。
離れては寄りそい、寄りそってはまた離れる男女の心の絆ー時には喧嘩し、時には和解し、結婚という長い道程を二人は歩んでいく。遥かな、遠い道程ー。メイプル夫妻という一組の夫婦を主人公に、新婚時代から始まって、20数年後に破局が訪れるまでの二人の心の揺れを繊細に描いた17編の短編集。著者アップダイク自身の結婚生活をもっとも忠実に反映した自伝的作品である。
僕たち結婚しよう。二人で新しい生活を始めるんだ…。お互いに家庭のあるジェリーとサリーは、人目をしのんで愛しあい、ついにそう決意する。それぞれの妻や夫との確執や対立を乗り越えて、彼らは晴れて夫婦になれることになるのだが…。アメリカ東海岸のロング・アイランド海峡に面した美しい町を舞台に、二組の若い夫婦がくりひろげる長い夏の日のラブ・ストーリー。
個人が秘密を持つこともままならないような小さな海浜の町イーストウィック。そんな町にふつりあいな大邸宅。そこに大都会ニューヨークから移り住んできたいわくありげで魅力的な中年の独身男。男の出現に色めきたつ3人の魔女。魔女といっても、あの腰の曲がった鈎鼻を突き出した老婆ではない。30代の女盛りの知的で美しい女たちである。いずれも離婚して、自由な生活をおくっている。そうした環境に1人の男が飛び込んでくることで、物語はドラマチックに展開してゆく-。