著者 : 三木卓
「性愛の対象としても、結婚の対象としても認められていない若い男など、どんな意味があるだろう?娘たちが“友人”としてわたしを扱うことは、お前はどこへでも行って勝手にしろ、ということ以外ではあり得なかった。」(「炎に追われて」より)。異性への畏怖、憧れ、情欲という切実な問題にぶつかる若者の姿を繊細に表現し、男女の機微を丁寧に描写することで、感受性豊かなイメージが喚起される。鋭敏な“性”の物語。第68回芥川賞候補作、三木卓第一小説集の復刊です。(表題作他二編収録)。
「Kのことを書く。Kとは、ぼくの死んだ配偶者で、本名を桂子といった。」詩への志を抱く仲間として出会い、結婚したKとの暮らしは苦労の連続ながら子供にも恵まれ落ち着くかに見えたが、「ぼく」が小説を書くようになると家庭から遠ざけられる。幼い娘と繭のなかのように暮らし、詩作や学問に傾注していった彼女の孤高の魂を、最期まで寄り添った同志として丁寧に描き出した純真無垢の私小説。逝きし妻への切なる鎮魂の書。
平和な家庭でのいつもの風景の中に忍び込む、ある予兆。それは幼い娘の、いつもと違う行動だった。やがて、その予感は、激しい発作として表れる。“破傷風”に罹った娘の想像を絶する病いと、疲労困憊し感染への恐怖に取りつかれる夫婦ー。平穏な日常から不条理な災厄に襲われた崇高な人間ドラマを、見事に描いた衝撃作。
花火会社の次期社長として平穏な日々をおくる鐘ヶ江英世の前に、一人の男が現れた。かつて才能あふれるバイオリン奏者として英世を導き、やがて過激化した学生運動へと引き込んだ男、鹿野晋二。暴力の過去から追われる英世を、予感の少女と直情の少年は救うことができるのか。多彩な人物像が交響する華麗な花火の世界を舞台に、人間存在の意味を追求する傑作長篇小説。