著者 : 千早茜
女子校の臨時教員・萩原は美術準備室で見つけた少女の絵に惹かれる。それは彼の恩師の娘・小波がモデルだった。やがて萩原は、小波と父親の秘密を知ってしまう…。(「アカイツタ」)大手家電メーカーに勤める耀は、年上の澪と同棲していた。その言動に不安を抱いた耀が彼女を尾行すると、そこには意外な人物がいた…。(「イヌガン」)過去を背負った女と、囚われる男たち。2つの物語が繋がるとき、隠された真実が浮かび上がる。
実体がないような男との、演技めいた快楽。結婚を控え“変化”を恐れる私に、男が遺したもの(「ほむら」)。傷だらけの女友達が僕の家に住みついた。僕は他の男とは違う。彼女とは絶対に体の関係は持たない(「うろこ」)。死んだ男を近くに感じる。彼はどれほどの孤独に蝕まれていたのだろう。そして、わたしは(「ねいろ」)昏い影の欠片が温かな光を放つ、島清恋愛文学賞受賞の恋愛連作短編集。
自由のない家族関係を嫌う美里は、一回り年上の恋人と彼の息子が住む家に転がりこむ。お互いに深く干渉しない気ままな生活を楽しむ美里だったが、突然の恋人の失踪でそれは破られた。崩壊寸前の疑似家族は恢復するのか?血の繋がりを憎むのに、それを諦めきれない三人。次世代を担う女流作家の新家族小説。
古い都の南、朽ちた楼門の袂で、男は笛を吹いていた。笛を吹いてさえいれば、男は幸せだった。ある春の夜、笛を吹く男の前に、黒い大きな影が立っていた。鬼だ。笛の音を気に入った鬼は、男に絶世の美女を与え、百日の間は絶対に触れてはならぬと告げるが…(「鬼の笛」)。人ならざるものを描くことで浮き上がる、人間の業や感情。民話や伝承をベースに紡がれた六編を収録した短編集。
関係のさめた恋人と同棲しながら、遊び人の医者と時々逢いびき。仕事は順調なのに、本当に描きたかったことを見失っているー京都在住イラストレーター神名葵29歳の熱くてダークな疾走する日常。千早茜、待望の長編小説。
地方公務員の武生がアパートの前で偶然知り合った不思議な女。休日になるとふらりとやって来て身体を重ね帰っていくが、彼女の連絡先も職業も分からない。ある日、武生は意外な場所で彼女を目撃してしまう…(第1話「まいまい」)。妻に浮気をされた中年男、不慮の妊娠に悩む女子短大生、クラスで問題を起こした少年…。いまを懸命に生きる7人の男女。泉鏡花賞作家が複雑にからみ合う人間模様を美しく艶やかに描いた群像劇。
「アカイツタ」美大を卒業したものの、画家になることもなくくすぶっていた萩原は、美術評論家の真壁教授の紹介で、女子校の臨時教員として勤めることになる。美術準備室で見つけた、暗い目でこちらを見つめる少女の絵。自画像だと思ったそれは、謎の死を遂げた鈴木という女生徒が、真壁教授の娘・小波を描いたものだった。やがて萩原は小波に惹かれていくが、彼女には誰にも言えない秘密があった…。「イヌガン」大手家電メーカーに勤める耀は、年上の彼女、澪と一緒に暮らして3年になる。掴みどころのない澪だったが、その穏やかな日々に満足していた。しかし、澪がときおり漏らす本音と怪しい行動に、耀は少しずつ不安を抱いていく。ある日、澪を尾行した耀は、思いがけない場面を目撃することになる…。過去を背負った哀しき女と、彼女に囚われていく男たち。2つの物語がつながったとき、隠された真実が明らかになる。あふれ出す情感を描き切った、心ゆさぶる墜落と再生の物語。