著者 : 古川綾子
自分をいつも守ってくれた豪快な母。何もかもがうまくいかなかった、クリスマスの夜の苦さ。就職難の中で手に入れたささやかな「城」への闖入者。死んでしまった母親との、本当の別れ。大人になろうとする主人公たちの大切な記憶を鮮やかに紡ぐ、作家の自伝的要素もちりばめられた瑞々しい短編小説集。
性の多様性。移民。失われた日々。喪失。暴力…。どこにでもあるリアルな世界を、時を越え、現実と幻想とを自由に行き来しながら、未来と希望を信じて描いた短編集。ジェンダー・アイデンティティの不確かさを自らに問いかける表題作「エディ、あるいはアシュリー」、第63回現代文学賞受賞作「相続」など8作品を収録。
夫の不倫で結婚生活に終止符を打ち、ソウルでの暮らしを清算した私は、九歳の夏休みに祖母と楽しい日々を過ごした思い出の地ヒリョンに向かう。絶縁状態にあった祖母と二十二年ぶりに思いがけなく再会を果たすと、それまでに知ることのなかった家族の歴史が明らかになる…。家父長制に翻弄されながらも植民地支配や戦争という動乱の時代を生き抜いた曾祖母や祖母、そして母、私へとつながる、温かく強靭な女性たちの百年の物語。2021年“書店員が選ぶ“今年の小説””第29回大山文学賞受賞。
親に偽装転入させられ、進学率の高いチョンミン洞の中学校に通うカンイ、裕福な家庭でモデルを目指すリーダー格のソヨン、チョンミン洞の貧民街に住むアラム。3人は家出を企て、ソウルに辿り着く。しかし、路上生活は厳しいもので、身も心も疲弊した少女たちは家に戻る。その後、自分が頂点に立つために人を貶めるソヨンの態度に、3人の関係は壊れていく。いじめは暴力にエスカレートし、やり場のない感情は暴走の果てにー格差、搾取など大人の加虐に晒されてきた少女たちは、痛ましい選択を繰り返す。最善を望んで最悪をたぐり寄せた、壮絶なる青春群像物語。第4回韓国文学トンネ大学小説賞受賞。
親密な関係なのに、心がすれ違う、「君」と「私」の変奏曲。『娘について』『中央駅』など、疎外された人々の視点から韓国社会を描いてきたキム・ヘジン。胸に迫る8つの傑作短編!さびれた教会前で野良猫に餌をあげていた私に話しかけてきた君と、地域の再開発話。大学新聞に所属する私と君と、ある嫌疑をかけられる先生の話。パーティで好奇と同情の目にさらされ、当惑する同性カップル。同等な存在だと思っていたのに、亀裂が入る君と私。寂寥感と抒情があふれる。
タクシー運転手のヨンデは、車内で中国語のテープを聴いている。数ヶ国語を話せた、死んだ妻ミョンファが吹き込んでくれたものだ。何をしても長続きせず、「家族の恥」と周囲に疎まれ、三十六歳で逃げるように上京した彼は、中国の地方から出稼ぎに来ていた親切なミョンファと出会い、貧しいながらも肩を寄せ合うように暮らしていた。だが、やがて彼女はがんを患って…(「かの地に夜、ここに歌」)。韓国社会の片隅で必死に生きる声なき人々を愛と共感を込めて描く、哀切な9篇。
厄介な恋人、価値観の合わない家族、やめられない習慣…あなたがお別れしたいものは、何ですか?そこは、人々の「別れ」を代行する奇妙な会社だった。文学賞受賞作家が贈る、韓国発のお仕事小説!イ・カウル、30歳。これまでまともな仕事に就けないまま非正規雇用を転々とし、気付けば人生崖っぷちだ。そんなとき、“トロナお別れ事務所”という会社の面接が決まる。意気揚々と面接へ向かったカウルがたどり着いたのは、オシャレな街の路地裏にある古びた雑居ビルだった。面接に合格したカウルは、アクの強い社長に振り回されながらも、なんとか成果を上げようと、さまざまな別れの依頼に奔走するが、ある出来事をきっかけに、心の奥底に閉じ込めていた本来の自分と向き合うことに…。世の中に押し流され、自分を見失ってしまった人へエールを送る話題作。
社会から軽んじられてきた主婦たち、いつのまにか生じた溝にゆれるLGBTカップル、社内での性暴力を告発した女性…。すこしの誤解やすれ違いから愛する人や大切な仲間を一瞬にして失う痛み…私たちは、なぜ分かりあえなかったんだろう?やり場のない怒りや悲しみにひとすじの温かな眼差しを向け、“共にあること”を模索した十一の物語。
十六の夏に出会ったイギョンとスイ。はじまりは小さなアクシデントからだった。ふたりで過ごす時間のすべてが幸せだった。でも、そう言葉にすると上辺だけ取り繕った嘘のように…(「あの夏」)。誰も傷つけたりしないと信じていた。苦痛を与える人になりたくなかった。…だけど、あの頃の私は、まだ何も分かっていなかった。2018年“小説家50人が選ぶ“今年の小説””に選出、第51回韓国日報文学賞受賞作。
汚れた壁紙を張り替えよう、と妻が深夜に言う。幼い息子を事故で亡くして以来、凍りついたままだった二人の時間が、かすかに動き出す(「立冬」)。いつのまにか失われた恋人への思い、愛犬との別れ、消えゆく千の言語を収めた奇妙な博物館など、韓国文学のトップランナーが描く、悲しみと喪失の七つの光景。韓国「李箱文学賞」「若い作家賞」受賞作を収録。
老人介護施設で働く「私」の家に住む場所をなくした三十代半ばの娘がしばらく厄介になりたいと転がりこんでくる。しかも、パートナーの女性を連れて。娘の将来を案じるあまり二人とぶつかる「私」にやがて起こる、いくつかの出来事と変化とは。LGBT、母子の関係、老いというテーマを正面から見つめ「シン・ドンヨプ文学賞」を受賞した傑作長編。
本書には、音楽との出会い、さまざまな思い出にまつわる歌、著者自身がつくった歌について綴られている。またハン・ガンのオリジナルアルバム音源情報も巻末に収録!著者の繊細な感性に触れるエッセイ集の初邦訳。
臨月の母を捨て出奔した父は、私の想像の中でひた走る。今まさに福岡を過ぎ、ボルネオ島を経て、スフィンクスの左足の甲を回り、エンパイア・ステート・ビルに立ち寄り、グアダラマ山脈を越えて、父は走る。蛍光ピンクのハーフパンツをはいて、やせ細った毛深い脚でー。若くして国内の名だたる文学賞を軒並み受賞しているキム・エラン。表題作など9編を収載したデビュー作、待望の邦訳。