著者 : 吉村正一郎
時は寛政、11代将軍家斉の世。毎夜、公方様の寵愛を受けるべく三千人の美女たちが壮絶な暗闘を繰り広げる“女の牢獄”大奥。そんな男子禁制の女の園でひそかに起こる一大事の解決に孤軍奮闘する、男であることを捨て去った男。その名は、斎左門。将軍の隠密役を担うこの男を、奥の女たちは声を潜めて「大奥始末人」と呼んだ。一子相伝の刀術を極めた左門に今夜も勅命が下される。それは御台所に生まれてくる男子の暗殺…。
江戸元禄期。大坂の染物屋の若旦那文七は放蕩を尽くして勘当の身。金もなく途方にくれる文七は、やはり金に窮する赤穂浪人不破数右衛門と出合う。それは、殿中で赤穂藩主浅野内匠頭が吉良上野介を斬ったことが浪速の町に知れわたった日であった。町人と武士の身分を超えて気の合う二人は、やがて赤穂の仇討ち騒動に巻き込まれていくのだが…。書下ろし痛快時代小説。
羽倉信清は秘術の使い手として武芸の道を極めた男。だが、ある事故で男の機能を失ってしまった。家名を継ぐことを断念した彼に老中・松平定信の声がかかる。大奥坊主・斎左門として隠密を務めよというのだ。それは御台所の男子を暗殺することが主な役目だが…。魑魅魍魎の如き大奥三千人の女たちを相手に孤軍奮闘する男を描く書下ろし長篇時代小説。
俳諧師から草本作家への転身をはかる井原西鶴。亡父ゆずりの豪剣をふるう磯部信十郎。二人の奇妙な友情を軸に織り成される人間模様の数々。米相場を左右する大坂商人たちの葛藤と幕閣中枢の暗闘には、謎の美剣士がからむ。-剣あり、恋あり、友情ありの、浪花元禄時代絵巻。第3回時代小説大賞受賞作。
日系三世のミツオはロスの私立探偵。ベトナム戦時代の直属の上司カゾー曹長が、在米ベトナム人に刺殺された。戦後、九年の時を経たとはいえ、プロフェッショナルな兵隊だった男が素人に刺殺されるはずはない。ミツオは信頼し敬愛したカゾー曹長のために、“依頼者のいない捜査”に乗りだす。多民族国家アメリカの複雑な社会構造のなか、真相を究明する男の生き様。
196×年、戦闘激化の一途をたどるベトナム戦線。召集された日系3世のミツオ・ヤマモトが配属されたのは、戦死者を収容する通称“葬儀屋部隊”だった。そして数年後、血で血を洗う地獄の戦場から帰還し、私立探偵となったミツオを待ち受けているLAでの第2の戦場ー。日系3世の著者が入魂の筆致で描くわがアメリカ、わが日本。長篇ベトナム戦記。
セーヌの川底からお化け潜水夫に水死体が運び去られた。それを目撃したヴァランタン・ムーフラールも水死体となって、所もあろうにエッフェル塔の上に現われ、おまけに幽霊船『飛び行くオランダ人』号船長の契約書までも添えてあった。血の気の多いパリっ子を巻き込んで次々おこる怪事件、登場する怪人物、深まる謎…。エッフェル塔の構造の秘密という奇抜な着想から繰り出される奇想天外な物語。
歓楽の生活をなげうち、真実の恋に生きようとする娼婦マルグリットと青年アルマンとの悲恋の物語。何ものにも代え難いその恋さえ恋人のために諦めて淋しく死んでゆくマルグリットに、作者(1824-95)は惜しみない同情の涙を注ぐ。汚土の中からも愛の浄化によって光明の彼岸に達しうるもののあることを描き、劇にオペラに一世を風靡した。