著者 : 大岡昇平
レイテ島の土はその声を聞こうとする者には聞える声で、語り続けているのであるー八万の兵力を投じながら、生還者は僅かに二五〇〇人。太平洋戦争最悪の戦場を鎮魂の祈りを込めて描きつくす。巻末に「連載後記」、エッセイ「『レイテ戦記』を直す」を付す。
米軍のオルモック逆上陸に壊滅状態に陥りながら、自活自戦を続ける日本軍。昭和十九年十二月二十六日、マッカーサー大将がレイテ戦終結を宣言するも、司令官山下奉文大将の訓示「生ノ難キニ耐エカチテ永久抗戦」が届く。大西巨人との対談「戦争・文学・人間」を巻末に収録。
昭和十九年十一月、レイテ島最大の激戦地となるリモン峠での死闘が始まった。現地の苦戦に武藤方面軍参謀長は打切りを意見具申するが、八日の総理大臣小磯国昭の天王山発言により、レイテ戦続行は大本営方針となる。巻末にインタビュー「『レイテ戦記』を語る」(聞き手・古屋健三)を収録。(全四巻)
戦争は勝ったか、負けたかというチャンバラではなく、その全体にわれわれの社会と同じような原理が働いているー。太平洋戦争の天王山・レイテ島での死闘を、厖大な資料を駆使して再現した戦記文学の金字塔。毎日芸術賞受賞作。巻末に講演「『レイテ戦記』の意図」を付す。
その執拗なまでの観察眼で対象に肉迫する作家・大岡昇平の散文精神は、愛好した推理小説を実践する際にも、その威力を遺憾なく発揮した。ここに収めた初期ミステリの代表作九篇も安易な解決を望むことなく犯人を追う。海外で実際に起きた事件や題材も採り入れながら大胆に展開される。本格的な傑作選。
女の盛りを過ぎようとしていたホステス葉子は、大学教師松崎との愛人生活に終止符を打ち、古巣の銀座のバーに戻った。無垢なこころを持ちながら、遊戯のように次々と空しい恋愛を繰り返し、やがて睡眠薬自殺を遂げる。-その桜花の幻のようにはかない生に捧げられた鎮魂の曲。実在の人物をモデルとして、抑制の効いた筆致によって、純粋なロマネスクの結構に仕立てた現代文学屈指の名作。
事実を出来る限り正確に再現する…歴史を文学に昇華させる夢を紡いだ偉大な作家の渾身の遺著。慶応4年2月15日、フランス水兵と土佐藩兵の間にその事件は起った。殺されたもの、切腹したもの、死は免れたもの-非運な当事者たちを包みこむ事件の全貌を厳密正確に照らし出そうとする情熱。構想以来十年以上をかけたこの作品で、作家は歴史をみはるかす自由闊達な眼差しをと呼びかける…。