著者 : 宇野利泰
クリスティと並び称されるミステリの女王セイヤーズが創造したピーター・ウィムジイ卿は、従僕を連れた優雅な青年貴族として世に出たのち、作家ハリエット・ヴェインとの大恋愛を経て人間的に大きく成長、古今の名探偵の中でも屈指の魅力的な人物となった。本書はその貴族探偵の活躍する中短編から「不和の種、小さな村のメロドラマ」等、代表的な秀作7編を選んだ作品集である。
時は1869年。ニューヨークから九年ぶりにもどってきたキット・ファレルは、ロンドンに着いた早々、奇怪な事態に次々と遭遇する。友人たちや、アメリカで別れ別れになった恋人の不可思議な行動、キットを狙う銃弾…。そしてついに彼の目前の密室状況下で、その名もユドルフォ荘という館の主人が撃たれたのだ!この謎に挑戦し、名推理を発揮するのは、名作『月長石』の著者ウィルキー・コリンズその人であった!!ガス灯のきらめく十九世紀半ばのロンドンを舞台に、怪奇・歴史趣味に彩られた不可能犯罪を描く、巨匠ディクスン・カー最後の作品。
ポーランド系ユダヤ人のハリーはニュージャージーで実業家として成功しているが、実は第二次大戦中、ナチの強制収容所へ送られるところをイタリアへ逃げのび、米国へ亡命したという過去がある。そのとき彼を救ったのが、ブロードウェイの一流興行師ビリー・ローズが指揮する地下組織ベラローザ・コネクションだった。戦後ハリーは命の恩人を捜し求める…。奇妙な味わいの佳品。
情熱的な中年女性クララ・ヴェルドは、ニューヨークに四番目の夫と住み、ファッション関係の仕事をしていた。いつも洗練された身なりの彼女には、最初の結婚の前からイシエルという恋人がいて、彼からもらったエメラルドの指輪をいまも変らぬ愛のシンボルとしていた。ところが、その大事な指輪が紛失して…。ノーベル賞作家が贈る、ウィットあふれる愛の物語。
東西ドイツ再統一の気運高まるボン。今そこの英国大使館から職員が1人、機密書類とともに姿を消した。彼の名はリオ・ハーティング。現地採用の臨時職員にすぎないが、消えた機密文書が公になれば英独の関係悪化は必至。事態を重く見た英国外務省は、公安部のターナーを派遣、極秘にリオの行方を追わせる。ターナーは失踪した男の経歴、背後関係を探るべく、大使館スタッフにインタビューを重ね、リオの実像に迫ってゆく。果たしてリオはソ連のスパイだったのか?巨匠が自らの体験をもとに外交社会の虚妄を描き新境地を拓いた傑作スパイ小説。
言葉巧みに真実を隠蔽しようとする官僚たちに、苛立つターナー。大使館の閉鎖的な人間関係を辿る彼は、リオが数カ月前から何事かに取りつかれていたことをつきとめる。一方、リオ失踪の噂に、西ドイツ公安局が動きはじめた。醜聞を恐れる大使館はターナーの帰国を決定。だが、真相究明への情熱断ちがたいターナーは、指示に背いて調査を続ける。やがて彼は、事件の背後にドイツ統一をめぐる権力者の卑劣な取引があることを知るが…。国益のためには手段を選ばない非情な国際政治の世界と、その中で正義を貫こうとする人間の苦闘を描く力作。