小説むすび | 著者 : 小川内初枝

三十五歳、ひとり暮らしの私は、契約社員として、顧客クレジットカード申し込み記載漏れリストを修正する職務に就き、淡々とした日々を過ごしていた。そんなある日、記載漏れリストのなかに、十数年来音信不通の姉の連絡先を見つけてしまう。姉の出奔は、学生時代、私が当時付き合っていた恋人を奪って逃げたことに端を発していた。しばらく躊躇した後、久しぶりに電話してみる。不思議な体温のやりとりが続き、じゃあ、会おうかという話になった。姉は、幼少期、母に対していい思い出は少なかった。年の暮れ。私は姉を連れて帰省することにするのだがー。

恋愛から遠く離れた姉と、誰ともうまく愛し合えない妹。誰かと誰かの人生が重なっては離れ、離れては重なってゆく様を、丹念な心理描写で描き出す、書下ろし１篇を含む全６篇の連作短編集。

生きることと同じくらい愛なんて、遠い気がする。太宰賞作家が描く、結婚に踏みこめないこころの揺らぎ。

義理の兄妹でありながら長い恋人同士の多磨美と敏雄。倦怠しつつも依存する二人に甦る過去。業の深さが日常になった関係を印象深いラストと凝縮した描写でつづる表題作に好評連載の『二十年の電話』を併せて収録。