著者 : 小長光弘美
小さな小さな天使さん、お願い、早くパパを安心させて。看護師ナディアは、生死の境をさまよう早産の双子に語りかけた。双子の父親で医師のギデオンは、不眠不休の看護でもはや倒れる寸前だ。今回の代理母出産を望んだ妻とは、すでに離婚が成立したらしい。複雑な事情を抱えた彼を案じつつ、赤ちゃんたちの世話を焼くうち、ナディアは3人を愛し始め、ずっとそばにいたいと願うようになる。けれども彼女は、人に話したくないつらい過去を心に秘めていた。十代のころ、実の父親によって悪党に売り飛ばされたのち、そこでの生活に耐えかねて逃げ出し、今なお忍び暮らしているのだ。父子との絆が深まるほど、身を引くべきだという切ない思いが増し…。
トゥッチアには16歳のときに両親が決めた許婚がいた。相手は裕福だが、冷酷で計算高く、女好きの中年伯爵。9年後の結婚式の前日、彼女はかねてより計画していた逃亡を決行した。トゥッチアの失踪は世間を騒がせ、警察の捜索も始まったが、彼女に同情した伯母の助けによりシチリアの知人宅にかくまわれる。夜分、暗闇で何者かにぶつかり、たくましい腕に抱きとめられた。その正体は、家主の息子で大富豪のチェーザレ・ドナーティ。恥ずかしさに部屋へ駆け戻ったトゥッチアは、なぜか胸騒ぎを覚えた。一方、チェーザレは彼女が新聞を賑わしている女性だと気づいて、勝手知ったるミラノの古城へ彼女を連れ去ろうと一計を案じ…。
17歳で父を亡くし天涯孤独となったリスは、生まれ故郷を離れ、後見人である父の親友ナッソスが住むギリシアの島で暮らしてきた。今、急死したナッソスの葬儀を終え、悲しみに暮れるリスのもとに、弁護士が故人からの手紙を2通届けに来た。1通は彼女に宛てたもの、もう1通は、名前は知っているが面識はないギリシア人大富豪ターキス・マノリス宛てで、リスが直接手渡すようにと書いてある。そして、ナッソスのものだったホテルを二人に遺贈するので、最低でも半年間、手に手をたずさえ経営しなければならない、と。リスはターキスと会い、古代ギリシアの王子のような姿に我を忘れた。自分のもたらした手紙が、彼に罵りの言葉を吐かせるとも知らず…。
彼が帰ってくる。私をうとましく思って町から出ていった彼が…。ワイアットに捨てられたときの胸の痛みが、その後の長い年月などなかったかのように、ビッキーをさいなんだ。ふたたび彼に会って、平気な顔ができるだろうか?リッチーをー愛しい息子を、彼から隠しとおすことができるだろうか?事業に成功して富豪となり、10年ぶりに故郷に帰ってきたワイアットは、雑貨店にいるビッキーを見て驚いた。彼女がこの町に戻っていたとは。かつて、なにも言わずに僕の前から姿を消し、どこか遠くの町で、さっさとほかの男と結婚したビッキー。あのときなぜ僕を捨てたのか、説明してもらうときが来たようだ。
イタリア公爵の跡継ぎヴィンチェンツォと公爵家の使用人の娘ジェンマ。身分違いの恋とは知りながら将来を誓い合った二人だったが、ある夜突然、ヴィンチェンツォはさよならも言わずに姿を消した。息子の失踪に怒り狂った父公爵に母娘ともども城から追い出され、ジェンマは愛しの人と住む場所を一度に失った悲しみに苛まれた。10年後、公爵が他界し、城がさる実業家に買収されると知り、過去にけじめをつけるために、彼女はあえて城の求人に応募する。すると驚くべきことに、実業家の正体は…ヴィンチェンツォだった!彼の銀の瞳に再び心を奪われかけた瞬間、ジェンマは思い出したー母から繰り返し教えられた、愛は階級差を超えられないということを。
研修医のオリヴィアは亡夫の遺伝子を継ぐ子を人工授精で身ごもり、その大切な命とともにこれからの人生を歩んでいくつもりだった。しかし運命は残酷にも、彼女から心のよすがを奪おうとしていた。じつは手違いで、おなかの子が我が子でないことがわかったのだ!本当の親にこの子を奪われてしまうかもしれないなんて…。頼れる者もおらず、どうしようもない孤独感に沈んでいると、意外な人物に慰められ、オリヴィアは思わずときめきを覚えたー職場で女性スタッフらが熱い視線を送る美形ドクター、デイヴィッド。だが、彼が全米屈指の財閥出身だと密かに知る彼女は、我が身を戒めた。ただの同情を勘違いしてはだめ。これ以上辛いことに耐えられないから。
ナースのクララは15歳で両親を失い、胸に孤独を抱え生きてきた。幼なじみの男性を心の支えにしてきたが、所詮報われない片思いだった。だがそんなクララの前に、イギリスから来た医師のティモシーが現れ、ある夜、強引に彼女の唇を奪って叶わぬ恋から目を覚まさせた。誰をも惹きつけてやまない人柄とハンサムな容貌に魅了され、いつしかクララは彼に身も心もささげていた。けれども、彼は3カ月したらまた別の地へ向かう身…。クララはここにとどまってくれることを密かに願ったが、非情にもティモシーは別れを告げ、去っていったー彼女のおなかに、わが子の命が宿っているとも知らずに。
社交界にデビューして数年になる伯爵令嬢のクレッシーは、いつまでたっても嫁ぎ先が決まらず、肩身の狭い日々を送っている。5人姉妹の中でいちばん不器量なわたし。一生花嫁にはなれないのかしら?そんなある日、娘を政略結婚の駒としか考えていない父親から、とどめを刺すような命令が飛んできた。“今年はもう社交界に顔を出さず、弟たちの家庭教師をしろ”しかたなくやってきた田舎の屋敷で顔を合わせたのは、信じられないほど美しい男性、ジョヴァンニ・ディ・マッテオ。クレッシーは熱い視線を送ってくる彼に戸惑いながらも魅せられる。彼が身分を偽って英国に来たイタリアの伯爵家の御曹司だとは思わずに。