小説むすび | 著者 : 紅野敏郎

「裏に一本の柘榴の木があって、不安な紅い花を点した」（小川未明「薔薇と巫女」）。何を視、どう伝えるのかー日露戦後の新機運のなか、豊饒な相克が結ぶ物語。明治三八ー四四年に発表された、漱石・荷風・谷崎らの一六篇を収録。

模索と発見の小説黎明期。違和感も陶酔も、いま触れるすべてが新しい。明治二二年から三五年に発表された、逍遙・鴎外・一葉・鏡花らの一二編を収録。

どぎつく、ものうく、無作為でまた超技巧的ー百花繚乱の大正文壇は、やがて関東大震災とその後の混迷を迎える。芥川竜之介・川端康成らの一六篇を収録。

「私はいま宇宙と同じ大きさになっているはずである」（埴谷雄高「闇のなかの黒い馬」）。現在を突破する言葉の力、小説だけが語れた真実。昭和二七年から四四年に発表された、幸田文・島尾敏雄・三島由紀夫らの一三篇を収録。

「「生きられますか？」と彼は彼女にきいてみた。」（野間宏『顔の中の赤い月』）-焼跡から、記憶から、芽吹き萌え広がることばと物語。昭和二一年から二七年までに発表された、石川淳・坂口安吾・林芙美子らの一三篇を収録。

芥川の死、そして昭和文学の幕開けー「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった」（堀辰雄）。そこに溢れだした言葉、書かずにおれなかった物語。昭和二年から一七年に発表された、横光利一・太宰治らの一六篇を収録。