出版社 : 国書刊行会
アイルランドの小さな村を舞台に、専制的な父親の元で、自分の将来についてさまざまに思い悩んで成長していく一人の若者の姿を、ジョイス、ベケットらにも連なる実験的手法を用いて赤裸々に描き、発表当時発禁処分まで受けた青春小説の傑作。
20世紀初頭のアイルランドのダブリン、両親を早くに亡くして孤児となったメイナスとフィンバーの兄弟は、義理の伯父コロッピー氏に引き取られ、その家で暮らすことになった。友人の神父と議論にふけり、何やら重要なプロジェクトを画策中らしい変り者、コロッピー氏の独自の教育方針の下で二人は育てられるが、やがて兄メイナスは綱渡り術の通信講座というイカサマ商売を考案、怪しげな教本の出版販売や競馬のノミ行為など次々に事業を拡大し、ロンドンへと出て行った。その後、コロッピー氏が重い関節炎に悩んでいることを聞いたメイナスは、奇跡的特効薬“豊満重水”を贈って服用をすすめるが、この薬が思わぬ事態を引き起こすことに…。奇想小説『第三の警官』で知られるアイルランド文学の異才フラン・オブライエンの「真面目なファルス」小説。
オルガン奏者が何者かに襲撃され、不穏な空気が漂うトールンブリッジの大聖堂で、巨大な石の墓碑に押し潰された聖歌隊長の死体が発見される。しかも事件当時、現場は密室状況にあった。この地方では18世紀に魔女狩りが行なわれた暗い歴史があり、その最中に奇怪な死を遂げた主教の幽霊が聖堂内に出没するとも噂されていた。ディクスン・カーばりの不可能犯罪に、M・R・ジェイムズ風の怪奇趣味、マルクス兄弟のスラップスティックをミックスしたと評される、ジャーヴァス・フェン教授登場のヴィンテージ・ミステリ。
「おまえはヒップすぎるぜ、ベイビイ。そうだろ。ただのヒッピーなのさ」パリのジャズシーンで自由を謳歌する学生マレイと黒人ピアニストのバディとのクールにしてビターな出会いと別れを綴る青春/ジャズノヴェル「ヒップすぎるぜ」、「ハイになれば、ペテンやサギ、クソみたいな大ウソのすべてが透けて見える。その内側にある真実が見えるんだ!」-真夏のテキサスを舞台に、少年の“通過儀礼”をみずみずしい筆致でとらえた表題作「レッド・ダート・マリファナ」、JFK暗殺にまつわるグロテスクな妄想を鮮烈に描き、ウィリアム・バロウズをして「これまでに読んだ中で一番笑えた小説」と言わしめたアシッド・サイケ短篇「狂人の血」などの小説作品の他、トム・ウルフ、ハンター・S・トンプソンによる“ニュージャーナリズム”の先駆けとなった異色ルポルタージュ「オル・ミスでバトン・トワリング」、不条理作家と精神分析家が繰り広げるスラップスティック・コント「カフカVSフロイト」等も収録。“20世紀で最もヒップだった男”テリー・サザーンのヴァラエティあふれる唯一の短篇集がついに登場。
“かわいそうなティモニーに疲れたら、陽気な歌に移っていく。そして、夜の続きのために私たちは乾杯する。壊れたグラスも壊れてないグラスも一緒に。過ぎ去ったつらい日々と行方のしれないこれからの日々のために”ハイチを逃れたどり着いたマンハッタン。苛烈な過去と未来への不安を抱えながらも、前を向いて生きていこうとする3人の女学生のいまを生き生きと描いたエドウィージ・ダンティカの「葬送歌手」。“彼女は彼を殺すだろう。それは彼女の名がアンナだというのと同じくらいに間違いのないことだ。彼を殺して、彼女自身の人生がようやく始まる”結婚以来、暴君として君臨してきた、いまや寝たきりの夫の殺害を決意したアンナ。やがて訪れる決行の朝にアンナを待ち受けているもの、果たしてそれはーケトリ・マルスの「アンナと海…」。古くからの因習がひきおこす惨劇を静謐な筆致で綴った表題作をはじめ、カリブ海に浮かぶ小国ハイチに生まれた代表的現役作家9人による、透明なイメージに満たされた粒揃いの短篇集。
孤独な中年女性の日常への美しくも不気味な侵入者をえがいて、江戸川乱歩が奇妙な味の傑作と絶賛した「銀の仮面」、大嫌いな男に親友気取りでつきまとわれた男ー奇妙な関係がむかえる奇妙な顛末「敵」、大都会の暗闇にひそみ、異国からきた青年を脅かす獣の恐怖を克明に綴ってモダン・ホラー的味わいの「虎」、ゴースト・ストーリーの古典的名作「雪」「ちいさな幽霊」他、ニューロティックな犯罪小説から超自然の怪談まで、絶妙な筆致で不安と恐怖の物語を織り上げる名匠ヒュー・ウォルポールの、高度な文学的達成を示す本邦初の傑作集。
自己の同一性の証として、またよりどころとして、己れの内なる「神語体系」の調和を希求するウルフであったが、妻ガーダの不倫を疑ういっぽう、自身も不義密通への抑えがたい欲望を募らせてゆく。果てしない彷徨を繰り返すウルフの魂に、安息の時は訪れるのであろうか?強烈な筆致で、人間心理の奥底の異様な相貌をとらえ、圧倒的な文学世界を構築したポウイスによる、二十世紀を代表する大長編。
“百発百中のゴダール”は素晴らしい泥棒だ。その偉大な頭脳は、すべての可能性を予測し、あらゆる不可能を可能にする。水も漏らさぬ包囲網も難攻不落の金庫も、彼の行く手を阻めはしない。あるときは侵入不能の大邸宅から神秘の宝石ホワイト・ルビーを盗み出し、あるときは最新の防犯システムを破壊してウォール街一帯を大混乱に陥れ、またあるときは合衆国貨幣検質所からタンク一杯の黄金を奪取する。その華麗にして大胆な手口は、まさにひとつの芸術だ。20世紀の初め、世界の首都ニューヨークに君臨した怪盗紳士ゴダールの痛快きわまる冒険譚、全6篇を収録。
「私は誰なのか?私は何処から来て、何処へ去ってゆくのか?」11世紀にオマル・ハイヤームが四行詩集に詠った生の悲劇的感情に共感し、知的で変化に富んだ珠玉の小説のなかに、いにしえの詩人の懊悩を蘇らせた20世紀イランの巨匠ヘダーヤト。不死身のわが身を呪いつつ、死を求めて異郷に彷徨する男を描く表題作を含め、厭世観と狂気に満ちた短編小説七編の選集。本邦初訳。
明けがた5時、ブルーリアが、死んだ。ハイファでモルヒネ注射を打たれて、3時間後に意識不明のまま病院にかつぎこまれてから、1週間後のことだった。白い、こまかな雪が降っていた。ゲルティは窓のほうに目をやって、うれしそうな顔をした。「ねえ、スイスそっくりよ」そういって、彼女は微笑んだ。「イスラエルにも雪が降るなんて、今まで知らなかったわ」…深夜の精神病院でアルバイトをする主人公と、美しく謎めいた女性患者ブルーリアとの密やかな交感を描く表題作のほか、「パレルモの人形」「国境の少年」「薬剤師と世界救済」「真夜中の物語」など、英国統治下の古都エルサレムを舞台に、静謐な日々の記憶の底に潜む悲哀や喜びを、不思議なユーモアを交えて綴る珠玉の短篇の数々。イスラエルを代表する作家シャハルの傑作を精選した本邦初の作品集。仏メディシス賞外国文学賞受賞。