出版社 : 幻冬舎
メロウでポップなひめるワールド。一風変わった不器用な人々のあったかくて切ない人間模様を描く珠玉の短編集。洋一は、岳也のことをくしゃみさんと呼んでいる。というのも、岳也が行く先々で人のくしゃみをこっそり録音しているからだ。(「くしゃみとルービックキューブ」)ドーナツの穴の空虚成分を発見した空間数理学者、飯野渉さん、老衰で死去、97歳。あるとき新聞でそんな見出しを見つけたのだ。今でも覚えている。見出しの横にはドーナツの写真があった。ドーナツの真ん中の空洞部分に、細かい字で手書きらしいアルファベットの図式が書かれてあった。(「空虚成分」)
才能があり華やかに生きる禅、才能がなく地道に生きる賢一。幼馴染でありながら対照的な2人は、それぞれ異なる人生を選び、次第に征遠になっていく。数年後、久しぶりの再会を果たした彼ら。しかしこの再会には驚くべき思惑が隠されていた。
逃げ出そうとしたときには、もう遅かった。新人賞を受賞したものの小説を一冊も刊行できていない律は、ファンを名乗る女性から亡くなった姉の伝記執筆の依頼を受ける。その姉は、生前の姿形が律と瓜二つだったという。取材を進めるうち明らかになる姉妹の確執、家族の秘密。律が開けたのは、パンドラの箱だったー。予測不能のラストに向かって疾走する傑作長編。
明治維新の礎を築いた覚悟ある兄弟の生き方。仲間達を寺田屋で斬った喜八郎。英国人を生麦で斬った喜左衛門。己を捨て、分断する薩摩藩を島津久光の下に結束させ倒幕に導いた兄弟が、命を懸けて生きた軌跡を追う。
アッキー13歳。初恋の相手は同じクラスのひまり。母は精神科に入院中。「そうきょくせいしょうがい」っていったいどんな病気なんだろう。病名は少しカッコいい感じもするー。隔離室には変な人もいるけれど、いろんな人がいて、いいんじゃない?
「他の人を照らす」生き方をすること。派遣社員の由里香と課長の森山が、契約最終日に交わした約束。そこから、2人の挑戦の日々が始まった。紆余曲折を経て、高校を中退していた由里香。彼女が志したのは、難関の医療セラピスト。夢の実現、そしてその先へ向かって努力を重ねる由里香に伴走する森山の心には、忘れられない記憶があってー。
大学生の伊庭克彦は、参加したスキー選手権大会で競技中の事故により脊椎を損傷し、四肢麻痺となった。以前のように手を動かすことも、歩くこともできない現実を少しずつ受け入れていく克彦。ケースワーカーの勧めで「言語聴覚士」の研究生として学びはじめ、新たな目標や生きがいを見いだしていくー。
1998年、他愛なく合コンに興じていた若者たち。しかし彼らの人生は、世間を揺るがす渦に巻き込まれ大きく道を違えていく。日本というぬるま湯の中で、地下水脈のように蔓延る暗澹たる闇。その世界に引き寄せられた若者は、15年後、政財官の多くの人士を道連れに破滅へと突き進む。すべての謎は、「百年後の武蔵野」に収斂する。仮想・現代日本の30年を描く、深奥なる叙事詩。
出版社に勤める定年間近の俺に、高校時代の恋人から39年ぶりに電話がきた。会ってみると、17歳の時未遂に終わった大阪から南紀白浜へのバイク旅行に、もう一度行かないかという誘いだった。謎めいた仕掛けからラストに至る鮮やかな大どんでん返し。生きるという厳粛な綱渡りをアクロバティックに決めた一大“人生絵巻”。
吹上町の夏が終わり、引きこもりの美鈴がミミのもとを訪れた。「部屋の中に子どもの霊がいるんだ。いつも夜になると出てくる」生も死も、過去も未来も溶け合う吹上町に、新たな風が巻き起こるー人智を超えた世界の理がしみじみと胸をうつ、大好評哲学ホラー。
彼女は偉大な科学者だったのか、はたまたペテン師だったのか。あらゆる組織・臓器に分化する万能細胞が、いとも容易く作れてしまうー疑惑の細胞、その真実を暴き出す。表題作「小説万能細胞」のほか、アルツハイマー病で失われた記憶を再生医療で取り戻そうとする研究者の苦闘を描く「水迷路の鼠たち」も収録。
『天津風の田に毒をまいた。残りの山田錦が惜しかったら、五百万円用意しろ』烏丸酒造に届いた一通の脅迫状。見れば一本百万円を超える純米大吟醸酒の元となる田の一角が枯らされていた。捜査の過程で浮上する、杜氏の死にまつわる事件の疑惑。そして、脅迫犯が突きつける、前代未聞の要求とはー。密室の謎とアリバイ崩しに挑む、菌も大活躍の発酵醸造ミステリー。
1919年、「全宇宙を変える大発見」とともに、マックス・プランクとニコラ・テスラは、ベオグラードに辿り着く。セルビア秘密警察のアピス大佐は、プランク暗殺計画を阻止するため、国家の名誉と科学の将来を守るため、美しき女スパイ、アンカ・ツキチを任命する。1919年、第一次世界大戦の興奮冷めやらぬベオグラード。「宇宙を変える世紀の発見」をめぐり、数多の「思惑」と「陰謀」が暗躍する。圧巻の社会派超大作!
いつか機会があれば、関係修復したい気持ちが残っている。世界でたった一人、血を分けた兄なのだから。あれから歳月が流れ、兄の言い分を多少なり、理解できるようになった。時間の経過は、人間が冷静に判断するためにも必要だったのかもしれない。他人事ではない。避けて通れる問題でもない。父の死から始まる、衝撃的なノンフィクション小説。