出版社 : 本の泉社
周五郎のユーモア小説は単純ではない。ほんとうの自分ではないことに気づいて堪忍袋の緒を切る「評釈堪忍記」には、占領下日本の悲哀が隠され、口舌で藩の権力争いを収める「おしゃべり物語」は、秘事・陰謀が欲望まみれなことを語りかける。城内のあらゆる出来事を自分がやったと名乗り出る「わたくしです物語」には、「責任」を顧みない「時代」への警鐘もある。おかしみはやさしい人間のもの。珠玉のユーモア七編を厳選。
心ばえ。心延え、と書く。「心映え」「心栄え」と書く人もいる。大して変わらないのだろうが、「映え」や「栄え」がなんとなく心の静かな状態を表しているのにくらべて、「心延え」には、もっと動的な、相手を思いやり気遣う、ひたすらな心働きのようなものを感じる。人情とはひと味違う、そんな山本周五郎の傑作七編をオリジナルに編集。
見上げる超高層ビル群。人口1400万人を超える大都会・深〓。捨てられた人もまた息を吹き返し食べ、飲み、語り、生動する。日本人が失くしたものをそこに見る。
おしずの一途な愛をえがいた「おたふく」、家付き娘の放蕩無頼を相手に家と商売を守る意気をみせる「こんち午の日」、岡場所にもまことが出逢う「つゆのひぬま」、火鉢づくりにかけた職人の誇りがみんなの自慢の「ちゃん」など、庶民の心根をしみじみと語る好短編六作を収録。本書オリジナル編集。
旧友の仕官を助ける「人情武士道」、馴染まぬ新妻の愛の成就をはかる「山椿」、肩寄せ合う人たちのためにかけ試合をする「雨あがる」、婢や使用人にも慕われた妻の日常をはじめて知る「松の花」、死去した夫人の願いをわが事として仕えた下女の「二十三年」など、武家とその妻女たちの人情ものがたり九篇を収録。本書オリジナル編集。
ハイジャンプで全国高校1位になった良。大学進学を機に新しい世界に挑む。ベトナムのフォン、アメリカのソフィアとともに『資本論』を学ぼうと世界に発信する。あらわになる世界資本主義の矛盾にSNS時代の彼らはどこまでも若く、鋭い。
あなたの戦争メモリアルデーはいつですか。終戦の8月15日?それとも被爆の8月6日、9日?9月18日、7月7日、12月8日はご存じですか。日本があの戦争を始めた日です。この短編小説集は、その日からの戦争と戦後を「団塊世代」が子・孫たちへと問いかけたものです。
またもう一度選ぶならこの大学をわたしは選ぶ。本館前の芝生の中で、もはや学生は輪になって集わない。占春園の池のほとりで、もはや学生はギターを持って歌わない。それでも日本のやさしい春は、その襞の中に育んだあざみのけなげな一本を、校門脇のコンクリートの狭間にわずかな土を見つけて置いていった。もしもう一度選ぶならこの大学をわたしは選ぶ。(本書所収「もう一度選ぶなら」)より。東京教育大学は、1960年代末〜70年代初頭の学園紛争で唯一、歴史を閉じた大学である。半世紀を経て、かつての日々を愛惜込めて追尋する珠玉の小説群。主人公たちが求めた自治と自由と民主は、もはや色あせてしまったのか。大学は確かになくなったが、たたかいは思想を生み、仲間を繋ぎ、彼らの人生を支えた。