出版社 : 本の泉社
凶作、飢饉から村人を救ったのはひとりの百姓の妻だった。今に伝わる越後の栃尾縞紬は、江戸天明・寛政期に生み出された。機織りの天才オヨと心ある庄屋の合作は、疲弊した村々を救った。双子の姉妹の糸に込めた思いが四季のめぐりと織り重なって…。
取材先のカンボジアで凶弾に倒れた恋人。哀しみ、怒り、遺志を胸に地方新聞の記者になった洋子。紀伊半島の過疎を狙ったいくつもの原発計画。義姉の死、残された幼い姪。天安門事件につづきソ連の崩壊…。洋子は向かい風に立つ。
潮が香り、砂が鳴く因幡の風が湾から谷へ吹いてくるー舞鶴軍港建設に貧窮脱出を賭けた因幡の部落民。だがそこには差別が残り、酷酷な労働は命を奪う。日本の「近代」は本当に「近代」なのか。水平社を模した八東社の旗が揺れる。
まだ夜が明けていなかった。南紀州の山々は古くから三千六百峰と呼ばれてきたが、その山々や各地に散在する村々を激しい春の風雨が襲っていた。一九一二(大正一)年のある晩春の夜明け、流域の山々や谷々の水を集めて富田川の濁流が勢いを増し、重いうなり声をあげて紀伊水道へと流れ込んでいた。(「第一部・灰色の雲」より)。
新渡戸が創設した札幌の夜学校。教えを心底ふかく宿す老女がつぶやく気象通報には…(『札幌遠友夜学校』)。稲造やその父・十次郎、祖父・伝たちの事績を、新渡戸につながる人たちが現代に受け継ぐ思い(『鞍出山の桜』)。愛媛県西予市の教会に残る署名のない新渡戸の扁額。戦時下の軍部批判発言とともにその真偽を探る(『新渡戸博士の扁額』)
ドラスティックに変わり続ける学校。変化は常に個別の形をとって現れる。彼らはそれに向き合いながら、自分なりの関わり方を探っていく。あまたの「個」の営みが線になり、面になり、あすにとどく橋になる。
“だれが戦争などしやがるのか”-青春を破壊する絶望の泥濘は心の闇かあるいは国家か。報道班員としてインパール作戦に従軍した火野葦平がつぶさに見、聞いた兵士たちの無惨、痛憤、愛、訣別を「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」の戦争三部作の集大成として描き出す。