2003年9月25日発売
僕の首の後ろにも、他人よりもちょっと濃いめの産毛が生まれたときから生えていて、これが物心ついたころから僕の抱えた爆弾だったのだけれど、十三歳になってすぐのある晩、自分の鎖骨をこすっていて、そこにいつもとは違う感触を感じてうつむいて、首元に赤くて長くてコリコリと固い明らかな鬣の発芽を確かめたとき、それまでは祖父と父と同じように背中に負ぶっているつもりだった爆弾が、気づけば僕だけ胸の上にも置かれていたと知ってショックで、その上さらにその導火線にとうとう火が点けられたのを実感して、僕は絶望した。-福井県・西暁の中学生、獅見朋成雄から立ち上がる神話的世界。ついに王太郎がその真価を顕し始めた。ゼロ年代デビュー、「ゼロの波の新人」の第一走者が放つ、これぞ最強の純文学。
年上のあの人を追って、18歳のカヲルは海を渡る。期待と続望の間を行き来する、狂おしくもどかしい恋ー。そんなある日、手強すぎるライバルが、突然現れた。親子四代が弄ばれた悲恋の運命に、カヲルは天性の美声を武器に立ち向かおうとするが…。恋は遂に、叶うのか?『彗星の住人』に続く、「無限カノン」第二部。
黒塗りの愛車に5台の色違いの携帯電話を載せて、ロンドンを駆けめぐるタクシー運転手のチート。携帯電話は5人の恋人に分け隔てなく接するためのホットライン。だが、自由気ままな彼女の夜は、ひとりの奇妙な男性客との出会いで少しずつ壊れていく…。ロンドンを舞台にした異色のストリート・ノベル誕生。
私立探偵・天白五郎は、二人の女性の依頼を立て続けに受け、トラブルに巻き込まれた。毬子と名のった女は、闇金融業者を彼におしつけて、行方をくらます。優花が取り戻してくれと頼んだ携帯電話を探してみれば、そこには死体が転がっていた。腕っぷしだけはいちばんの、戦車みたいな探偵は、縺れて絡んだ謎の糸を解きほぐせるのだろうか。
のどかな殺人計画、狂牛病騒ぎとドメスティックテロリスト、謎の白骨死体と巨乳、そして徳川埋蔵金の秘密!?のどかなはずの村を次々に襲う、トラブルの数々。搾乳ヘルパー砂子田寛(26)と下九一色村の愉快な人(牛)たち。
薩英戦争、鳥羽伏見の戦い、戊辰戦争、西南戦争…激動の幕末・明治を駆け抜けた男、村田経芳。近代「もの作り」の開祖にして、村田銃の開発者。欧米にも知られた名射撃家の波乱の生涯を描く長編時代小説。
幸せに見捨てられた女。偽りの幸せにすがる女…。緩慢な日常の流れの中に身をまかせる女たちが、決意する一瞬。誰も、気づかぬうちに、女は心に変調をきたす。偽りの幸せなんて、許さない。あの人の不幸を、心から願う-。直木賞作家の円熟味あふれる9つの物語。
兵庫県城崎郡の余部鉄橋下の河原で、犬を連れて早朝散歩していた近くの住人がバラバラ死体を発見した。地上41メートルの鉄橋の上から墜落したらしい。だが、警察の調べで他殺であることがわかった。被害者は神戸の法律事務所に勤務する弁護士。休暇で愛媛に行っていたはずなのに、なぜ城崎で殺されたのか?兵庫県警の石田警部が捜査に乗り出す。石田が犯人を追いつめたとき、意外な結末が-。
定年退職した警視庁の名物刑事川島が、八か月後函館本線の経路際で死体となって発見された。首に絞められた痕があり函館警察署は殺人事件として捜査を開始した。十津川の調べで川島は自分が在職中に手掛けた殺人事件の再調査をしていた事が判明した。川島が逮捕した殺人犯は獄死していたが、生前川島に冤罪を訴えた手紙を出していた。その事件の真犯人が川島を殺したに間違いない。十津川は重要容疑者を捜し出したが、彼には強固なアリバイが-。
昭和二十年初夏。愛知県各務原、海軍航空技術廠。(なぜ、今ごろレシプロ戦闘機などを開発したのか。あと数年もすれば、ジェット推進の戦闘機の時代になるというのに)次期戦闘機の飛行試験。坂井三郎は嘆息しながら、二機を見やった。一機は中島飛行機と陸軍共同開発の試製重戦、キ-84。もう一機は海軍と三菱重工の対抗馬、A7M2。(戦訓は一撃離脱が正しい戦法だと教えている-)上空は薄くたなびく雲を除けば、明るい青一色。坂井は“本日の相棒”に向かい歩き出すと、ふと空を見上げた。零戦の勇士、富岳、有人噴進機、震電計画…そして、新たなる大戦。