2010年3月発売
きっかけは本当につまらないことだった。穏やかな暮らしを揺さぶった、彼の突然の暴力。それでも私はー。互いが抱える暗闇に惹かれあい、かすかな希望を求める二人を描く表題作。自分とは正反対の彼への憧れと、衝動的な憎しみを切り取る「クロコダイルの午睡」。戸惑いつつ始まった瑞々しい恋の物語、「猫と君のとなり」。恋愛によって知る孤独や不安、残酷さを繊細に掬い取る全三篇。
奇異と驚嘆、教えに満ちたイスラム文学の最高峰!最愛の妻の不貞を目撃してしまったシャハリヤール王は、女性への不信感が募り毎晩処女を求めては翌朝には殺してしまうようになる。そんな王の惨行を止めるべく、シェハラザードは王に物語を語り始める…。中世のアラビアでうまれ、18世紀以降ヨーロッパをはじめ各地でベストセラーとなったイスラム文学の最高傑作を漫画化。
無自覚トラブルメーカーの三枝は、ある晩、酔っ払いに絡まれていた女子大生を助けたのだが…お礼にと誘われたレストランで恋人の王とばったり。またもや大喧嘩に…。ところが、すべては王の元愛人、上海マフィアの姜が仕組んだ罠ー王に初めて男の味を教えた妖艶な美貌の持ち主…姜。何も知らない三枝は姜に攫われ、アヤシゲな性具で辱めを…。姜の狙いは一体…?年の差リスキーラバーズを襲う最凶の敵ー。
神奈川県警を辞め、私立探偵の看板を掲げた真崎薫のもとを、高校時代の野球部の仲間で、今はスポーツ選手の代理人を務めている長坂が訪ねて来た。その依頼を受け薫は、やはり昔の仲間であり、メジャーから日本に戻ってきたプロ野球選手の結城と会う。憔悴した様子の結城は、息子が誘拐されたと真崎に打ち明けるのだったが…。横浜を舞台に繰り広げられるハードボイルド小説、待望の第2弾。
共産党一党独裁が終焉を迎えつつあった一九八九年夏のソ連、在日朝鮮人の小説家・林春洙とルポライター・姜昌鎬は中央アジアを当局の招待で旅している。スターリン体制下の一九三七年、極東沿海州を追われ中央アジアに強制移住させられた「高麗人」たちを訪ねるのが目的である。二人は故国喪失者の哀切の日々を知るー日本語文学として、世界的視野での表現への挑戦が始まる。
ソ連崩壊前夜、故郷を追われた「同胞」の壮絶な体験を聞くために中央アジアを訪れた在日朝鮮人小説家・林春洙は西ドイツでの恋を思い出す。それは背徳の恋であり、祖国の分裂という問題が暗い影を落とす恋でもあった。政治の力に蹂躙された人々との出会いを経て、林春洙は民族、そして人間そのものに思いを馳せる。東西冷戦終結後の世界を見すえ、いち早くなされた文学的達成。
ダメ親父のバッタもの商売が原因で、兵庫県の尼崎から茨城県の下妻に引っ越してきたロリータ少女・桃子は、そこで絶滅寸前のヤンキー少女・イチコと出会い、二人は無二の親友になる(ここまでは前作)。それから桃子は、なぜかロリータ・ブランドのモデルになったイチコと代官山へ通うようになっていたが、ある日いつものように東京駅から乗った高速バスで殺人事件に遭遇し、足止めを食らう。しかも警察はよりによってイチコを容疑者と見なす。桃子探偵は真犯人捜しを始めるが…。友情と愛と仁義の『下妻物語』第二作(で、完結編)。
ロンドン五輪予選を兼ねた福岡国際マラソン2011。スタートラインに立つ選手にはそれぞれの人生があった。自己中心的で常に周囲と摩擦を起こす優勝候補の小笠原、アイドル的風貌の人気ランナー二階堂、地元福岡出身の谷口、一般参加で野心家の岡村、在日韓国人ランナーの洪、その同僚でペースメーカーながら何かを胸に秘める市川、そして偶然にも高校の同僚を先導することになった白バイ警官の長田。白熱するレースの中、徐々に明らかになる彼らをめぐる高校時代の事件とは。ノンストップで展開する陸上ミステリー。解説は福岡国際マラソンV4の瀬古利彦氏。
蝦夷地松前藩。家老蛎崎主殿は船問屋の赤崎屋と結託し、赤崎屋の商売敵八幡屋に密貿易の嫌疑をかけて取り潰しを図る。併せて正義感の強い目障りな役人三木原伊織も亡き者にしようと企てるが…。そこに、江戸の盗賊佐野屋惣吉、訳あってアイヌに成り済ましていた元旗本の土屋主水正、そして和尚の覚円ら、悪事を捨て置くことのできない男たちが次々と立ち上がる。彼らの助けにより、八幡屋の遺子銀之助は本土津軽へと逃び延びるが、一方、伊織の妻子の身にも危険が迫っていた。息もつかせぬ展開の大衆小説。書評家・北上次郎オススメの名作シリーズ第一弾。
八幡屋事件から十一年。首謀者の赤崎屋は、八幡屋の遺子銀之助と、これを助けた土屋主水正たちを始末するべくいまなお手を尽くしていた。佐渡に流されていた佐野屋惣吉は、松前発家老蛎崎主殿の弟の差し金で命を狙われ、成長した銀之助は赤崎屋に捕えられてしまう。救出された銀之助は、いよいよ父の敵、赤崎屋を討つことを決意。正義に篤い主水正や覚円和尚、そして露西亜に流れ着いていた三木原伊織らも、一味を成敗するため蝦夷地へ向かう。結集した正義の“ごろつき”どもを乗せ、船は最終決戦の地、赤崎屋一党が潜む孤島へ!波瀾万丈の大ロマン。
スペインのダリの館で日本人画家が経験する怪異譚(「ポルト・リガトの館」)。アマゾンの大湿原帯で元夫婦が遭遇したものは?(「パンタナールへの道」)。カシミールの高原湖で性の秘儀を会得する芸術家(「スリナガルの蛇」)。異国を旅する三つの能仕掛けの物語が絡まりあい、現実と幻想のあわいへ誘う。
文化10年、富山の百姓一揆にまきこまれ、過って妻のおはまを刺殺してしまった岩松は、国を捨てて出家した。罪の償いに厳しい修行をみずから求めた彼を絶え間なく襲うのは、おはまへの未練と煩悩であった。妻殺しの呵責に苦しみつつ、未踏の岩峰・槍ヶ岳初登攀に成功した修行僧・播隆の生きざまを雄渾に描く、長篇伝記小説。
部下の自殺をきっかけにうつ病に罹り、会社を辞め妻子とも別れ、何もかもを捨てて故郷・博多に戻った青野精一郎。肺がんを発病し、死の恐怖から逃れようとするかのように、結婚と離婚をくりかえす津田敦。48歳となった、小学校以来の親友ふたり。やるせない人生を共に助け合いながら歩んでいく感動の再生物語。
秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。
江戸は神田、玄関で揉めごとの裁定をする町名主の跡取りに生まれた麻之助。このお気楽ものが、町の難問奇問に立ち向かう。ある日、女好きの悪友・清十郎が「念者のふりをしてくれ」と言ってきた。嫁入り前の娘にできた子供の父親にされそうだという。本当の父親は一体誰なのか。
今なお、河童伝説が残る川で、左手首が切断された死体が、続いて、左腕が切り落とされた死体が浮かぶ。一方、相馬野馬追祭を見物に出かけていた棚旗奈々たち一行は、岩手県遠野まで足を伸ばしていた桑原崇と合流。そこでまた、血なまぐさい事件が…。事件の真相と、河童にまつわる真実が解き明かされる。
日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。