著者 : たけうちりうと
…幹の祈りは僕にも通じた。幹はどうあっても僕のそばにいたいのだ。僕もだ。僕も幹のそばにいたい。そして幹を幸せにしたい。そう思ったとき、僕の目から涙が溢れだした。幹はゆっくりと近づいてきて両手を広げ、僕を抱きしめた。いったい、こんな昼日中から、男二人で抱きあって、どうするつもりなんだろう。だけど、僕の涙は止まらなかった…。
伸は顔をあげ、僕を見つめた。「…惚れたまま、別れた相手がいるっていうのも、勲章かな」その刹那、僕の脳裏に、まばゆいばかりの海辺の景色が広がった。色とりどりのビーチボール、点在するパラソル、寄せては砕ける波の音…。そして、白いテント屋根の下で、笑って並んで立っている、僕と伸。…あの夏、僕は一生分の恋をした。
「へーちゃん、大好きだ」嬉しそうに叫んで、背中に飛び乗ってきたトモ君。そのまま彼をオンブして、僕はグラウンドを走り始めた。柔らかい日差し、ポプラ並木の枯れ葉色。頬にあたる風、背中のトモ君の温もり。すごく嬉しかった。すごく楽しかった。-僕らの宝物のような日々。でも、これは永遠には続かないんだ。“卒業”の日は、誰にでも必ずくるんだよ-。
自弥“わけあり、独り者”の湘石さんに出会ったのは、高校最後の春休み。一人旅からの帰り道に立ちよった、小さなコーヒーショップのマスターが彼だ。志望大学に受かって、可愛いガールフレンドがいて。人生の滑り出しは上々だった僕だけど、湘石さんと知り合ってから、何かが少しずつ変わり始める。そして思いがけず、彼の深い哀しみに触れてしまった僕は…。
誰にでも“忘れられない夏”はあるという。だとしたら、僕のは十六歳のあの夏だ。まばゆい川面、潮の匂いのよせる河口。海鳴りとさざめきの中で、カメラをかまえる彼の横顔が、いまも鮮やかに心によみがえる。ティアーズ・フォー・フィアーズのメロディとともに…。十六歳の司は、年上のカメラマン・律と出会う。彼に魅かれていく自分を、抑えきれなくなった司は…。第一回ホワイトハート大賞受賞。