著者 : わみず
梅雨空の東京・日比谷のホテルの宴会場。菓子職人の大会準決勝を前に、出場者が一堂に会し記者会見が催されていた。全国から集まった一癖も二癖もありそうな強豪たちの中で、栗田と葵は決意を新たにする。一方、栗丸堂には栗田の祖父が作った和菓子を求め、ある人物が訪ねてきた。かつて、一口食べて心を動かされたという祖父のものと同じ味の和菓子を食べたいと言う。栗田は五十年前の味を再現しようと祖父の友人を訪ねるのだがー。
葉桜が雨に映える東京、浅草。栗田は葵の父に認めてもらうべく和菓子職人の大会優勝に向け、今日も葵とふたり、自分たちの味を模索していた。しかし栗丸堂にかかってきた一本の不思議な電話から人探しが始まる。心当たりを探して街を歩くうち、栗田は気にかけていた人物とばったり出会うことになるー。やさしい甘さの和菓子の中に、それぞれの人が見つけた大切なものとは?吾妻橋のたもとの傘の中、栗田と葵のふたりの距離も縮まって…。
もうじき桜が咲きそうな三月の浅草。葵の父・義和に二人の交際を認めさせるため、決意を新たにする栗田。そんな折、二人は想像もしない事件に巻き込まれてしまうー。向かった先は、古都・京都。なんでも、鳳凰堂の支店でとある謎めいた事件が起こったのだという。居ても立っても居られず、新幹線に飛び乗る葵たちだったが…。花冷えのする京都で繰り広げられる、人と和菓子をめぐる大騒動。それは、やがて散る桜のように、鮮やかさと儚さをあわせ持っていてー。
白い沫雪がちらつき、町を彩る赤に薄化粧を施す元旦の浅草。美しい着物姿の葵を前に、栗田の心臓は早鐘を打っていた。それもそのはず、この日は赤坂鳳凰堂社長とその妻ー葵の両親と初めて顔を合わせる初詣の約束があったのだ。葵に対する純粋な想いとは裏腹に、父からの一言に引け目を感じてしまう栗田。やがて葵との間に大きな溝が生まれてしまい…。にぎやかな新春の浅草に浮かび上がる光と影。さて、今回の騒動はいかに?
冬の足音が近づく晩秋の浅草。晴れて営業再開となった栗丸堂には、ふわりと微笑む和菓子のお嬢様と、苦い顔をした若主人の姿があった。それもそのはず、伝統ある茶道家・白鷺流宗家から関西支部の客人を饗す茶菓子の用意を頼まれたのだ。浅草に軒を構えたばかりのライバル店「夢祭菓子舗」の主も同じ依頼を受けているという。和菓子をめぐる騒動は、秋の空のようにころころとその表情を変えー。にぎやかであたたかい、おいしい人情物語をどうぞ。
東京、浅草。下町の一角に明治時代から四代続く老舗『甘味処栗丸堂』はある。端整な顔立ちをした若店主の栗田は、無愛想だが腕は確か。普段は客が持ち込む騒動でにぎやかなこの店も、訳あって今は一時休業中らしい。そんな秋口、なにやら気をもむ栗田。いつもは天然なお嬢様の葵もどこか心配げ。聞けば、近所にできた和菓子屋がたいそう評判なのだという。あらたな季節を迎える栗丸堂。葉色とともに、和菓子がつなぐ縁も深みを増していくようで。さて今回の騒動は?