ジャンル : 演歌・純邦楽・落語 > 落語・演芸
古典演目で修行を積んだあと、新作落語で芸道をきり開いていった今輔師。ここで聞かれるのは、いずれも師の口調や動作を念頭において書かれた代表作だけに、実にいい味している。師の枕からは、その時代が読めるし、十八番の「おばあさんもの」もさすが!
昭和36年と34年の録音だから、どちらも倒れる前のもので、師の見事な、計算を超えた芸、演技を超えた術が楽しめます。どちらかと言えば、やっぱり(1)でしょうか。とにかく遊女物はうまい。客との絡みが“まんま”なんであるね。やらせがない。えらい。
どこまでとぼけているんだかよく分からないというシトで、ラジオは良く聴いて笑ってましたが、改めて聴いてみると、なんとものんびりしたテンポと間の取り方が、今は確実に昔の世界になってしまっている。時代を超えるということはなかなか難しい。
芝の生まれという正統派(?)の江戸っ子らしく、歯切れよく早いテンポでたたみ込んでくるところが実に気持ちいい。二ツ目時代に「女郎買いのことなら照蔵に訊け」と大師匠たちに言わせたキャリアを、これから生かそうという時代に死んだのはまことに残念。
流行をすぐに取り入れるかと思うと、意外なことろで古きものにこだわったり、いかにも明治の人らしい。ドスの利いた言い回しから一転、ホロリとさせる調子の巧さは金馬ならではの味。「夢金」の江戸情緒あふれる描写は、江戸好きにはこたえられない。
淡泊というか、派手さのない芸だが、これが江戸風だなと思わせる可楽。「反魂香」の芝居がかった高尾太夫との逢瀬とその後の展開の落差がいい。ちょいと口調が明解ではないひとだったが、病後の高座での「寝床」はゆったりしたテンポで妙に哀しげだ。
明るい色気の藝風は、江戸の面影を残した古き良き東京の最後の噺家と言える。洒落・粋の感覚は絶品で、一時期、幇間を経験したところから培われたものだろう。今回は幇間ものは収録されていないが、軽妙な語り口の爆笑ものでこの人の味を堪能できる。
明治31年生まれの今輔の最晩年の放送録音で、それぞれ70年と69年の収録。明治の親の子を思いやる人情の機微をおもしろおかしく聞かせる。さっぱりとした語り口のモダンなスタイルが楽しい。(2)は『五杓酒』の別名を持つ人間の恐さを描いた怪談調。
晩年はテレビ・タレントになってしまったが、新作落語の中興の祖としてもっと評価されていいだろう。“昭和の人情噺”「ラーメン屋」(今輔)は落語ファン必聴。「問わず語り」は1972年5月NHK-TVで放送されたもので、芸談がとても興味深い。
昭和30年代前半にラジオで落語を聴き始めた世代にとって、柳橋という噺家は大看板であるとは分かっていても、興奮させてくれる存在ではなくなっていた。遥か昔に出来上がってしまった人というイメージだったのだ。全盛期の高座に接してみたかった。
本郷生まれの助六は一時大阪にいたようだが、その山の手口調の品のよさが噺を妙に落ちついた雰囲気のものにしている。気の短い大工を演じる「長短」にはクスクスしてしまう。70年の録音。「片棒」は72年の録音でこれも妙に艶っぽく聞かせている。