著者 : アニ-・エルノ-
6年間つきあってきた年若い恋人と別れることにしたのは、私のほうだった。彼とはその後もときどき会っていたが、3ヶ月後彼から新しい恋人と共に暮らすと宣告されて、私は激しい嫉妬に苛まれる。その女のことしか考えられなくなり、どこに住むどんな女なのか、インターネットや名簿、あらゆる手段を使って特定しようとする。次第に私は狂ったようになり、攻撃的になってきて…。妄執に取り憑かれた自己を冷徹に描く表題作。違法だった中絶の壮絶な経験を描く衝撃作「事件」を併録。
本書は、『シンプルな情熱』発表の翌年93年に上梓された最新作。パリ近郊の新興都市セルジーに住む著者は、84年のルノードー賞受賞作『場所』の翌年から『ある女』と『シンプルな情熱』の執筆期間をはさんで92年までの八年間、「戸外」の日常的な場所で見かけた人びとの情景を日記のごとく書きとめていた。そのスケッチ風の短い断章からなる本作品は、独自の視点と感性で現代フランスの断面を見事に浮かび上がらせている。
彼女は、恋愛で結ばれたエリート・ビジネスマンを夫に持つ高校教師。子供が二人いて、快適なアパルトマンに暮らしているが、結婚生活に失望している。いわゆる主婦の役割を期待されて、買い物、食事の支度、子供の世話、その他の家事に明け暮れるうち、生きる意欲や、外界への好奇心が、自分のなかで錆びついていくのを感じるしかない。自由と自立のなかの幸福を志向していたはずなのに、そういう状況にはまり込んでしまうとは。自らの軌跡をたどって、彼女は、幼少時、思春期、学生時代、恋愛の時期、結婚後を語る-「女の子」として、「女性」として、どう生きてきたかを語る。『シンプルな情熱』三部作で話題を呼んだフランス文学界注目の女性作家が、自立への意欲と結婚生活への失望を描く、自伝的小説。
本書は、あらゆる女の物語、母を失ったあらゆる娘の物語、時とともに力が衰えていくあらゆる女家長の物語、がむしゃらに人生を突っ走ってきたが、ある時ふと手綱を緩めてしまうあらゆる寡婦の物語である。