著者 : カミーラ・シャムジー
長崎への原爆投下でドイツ人の許婚を失った寛子は、戦後、彼の異母姉を頼って単身インドのデリーに渡る。インド・パキスタン分離独立、ソ連のアフガニスタン侵攻、2001年同時多発テローー激動の現代史に翻弄された日本人女性の生の軌跡を描く圧巻の文芸大作。
イギリスで暮らす対照的なムスリムの家族を襲う悲劇が、われわれには想像もつかない状況で展開します。 そして最後には、その悲劇が異文化という壁を大きく揺さぶります。ここ数年間で出会った翻訳作品のなかで最も衝撃的で、切なく、心を打たれた作品です。--金原瑞人 【本書の概要】 ブッカー賞最終候補、女性小説賞受賞作! イスマ、アニーカ、パーヴェイズは、ロンドンで暮らすムスリム(イスラム教徒)の三人きょうだい。イスマは長女、下の二人は双子の姉弟。パキスタン系英国人の父親はイスマが幼い頃に家族を捨て、ジハードのためにボスニアに旅立ち、グアンタナモ収容所への搬送途中で病死した。3人に父親の記憶はほとんどない。母親も7年前に死んだ。長女のイスマは妹と弟を育てるために学業を中断して働いた。妹のアニーカは高校卒業後、奨学金を得て大学に。弟のパーヴェイズは音響関係のキャリアを目指す。イスマは渡米し、研究助手として大学院で勉強を続ける。そんなある日イスマは、カフェでエイモンという青年に出会う。エイモンもロンドン育ちだが、パキスタン系の父親は英国の国会議員で裕福な家庭だった。ロンドンに戻ったエイモンは、イスマの妹アニーカに会い、強く惹かれる。 一方、ロンドンに残ったパーヴェイズはパキスタンの親戚に会いにいくと嘘をつき、旅に出た。行き先は、シリアのラッカ。ジハード戦士だった父に憧れ、イスラム国に参加していたのだ。 イスマ、アニーカ、エイモンはそれぞれに悩みながらも、信念を貫き、あらゆる手段でパーヴェイズを救い出そうとするが、内務大臣となったエイモンの父やMI5(情報局保安部)の監視、国籍の問題など様々な壁が立ちはだかる……。 登場人物の各視点による五章で構成され、物語はヒースロー空港に始まり、マサチューセッツ、ロンドン、ラッカ、イスタンブールへと舞台を移しながら、スリリングに展開し、パキスタンの都市・カラチで衝撃の結末を迎える。ギリシャ悲劇『アンティゴネー』に着想を得て、家族の絆と国家の法律の対立を描き、国籍・国境のあやうさを訴えかける傑作長篇。英米各紙で「ブック・オブ・ザ・イヤー」に輝き、BBCが選ぶ「わたしたちの世界をつくった小説ベスト100」(過去300年に書かれた英語の小説が対象)の政治・権力・抗議活動部門で10作品に選ばれた。 また、ムスリムの人が西欧社会で生きていく上での多様な生きづらさが具体的に描かれ、登場人物それぞれの視点で実感できることも本書の大きな魅力となっている。