著者 : ギャヴィン・ライアル
1914年春、パリで警察署へ放火した容疑で手配されている無政府主義者の青年が、ロンドンで拘束された。身柄引き渡しの裁判が始まるが、青年は弁護士を通してある告発をする。自分をフランスへ引き渡すなら、英国王室の驚くべきスキャンダルを暴露するというのだ。いち早く情報をつかんだランクリン大尉は、ただちにその青年、グローヴァーの弁護士に接触する。やがて入手した「スキャンダル」の中身は-彼は、自分が現英国国王の息子であり、王位の継承者であると言うのだ。若き日の母親が、ポーツマスで海軍勤務だった頃の皇太子と情を通じた証しが自分である、と。しかも、当の母親は息子の言葉を裏付ける手紙を残して、突如失踪していた。ランクリンたちの調査でも、それを否定するような事実は発見されない。では、告発は真実なのか?だとしたら、いったいどんな影響が?国王のフランス公式訪問を間近にひかえ、スキャンダルの可能性に震撼した王宮は、情報局に圧力をかける。何としても真相を探り出し、もしもそれが真実ならば、闇に葬りたい。ランクリンと相棒のオギルロイは、いつもと勝手の違う仕事に戸惑いつつも調査にあたる。だが、グローヴァーとその母親の背後には、フランス無政府主義者たちの影が見え隠れしはじめた…。激動の時代に、誇りのために、そしてまた時には誇りを捨てても、熱く闘う人々の姿を描く、巨匠の渾身作。『スパイの誇り』『誇りへの決別』『誇り高き男たち』に続く冒険スパイ小説シリーズ最新刊。
1914年、ヨーロッパの緊張は中近東の地へも飛び火していた。斜陽のオスマントルコ帝国と手を結んだドイツは、自国と中近東を結ぶ大動脈、バグダッド鉄道の建設に邁進していた。だがそれは、英国がようやく手にした中近東の橋頭堡、クウェートへの脅威となる。いまや中近東の覇権は、新時代の軍事・産業・経済の必需品-石油の独占を意味していた。バグダッド鉄道建設にあたっていたドイツ人の鉄道技師が、現地の山賊に誘拐された。工事はストップし、事件解決のために政府と鉄道会社は身代金を支払うことにする。これは、密かに建設の妨害を目論む英国にとっては絶好のチャンスだった。だが表立った活動は、全ヨーロッパを巻き込んだ戦争の勃発に繋がりかねない。外務省の要請を受けた情報局は、ランクリン大尉に密命を発した。身分を偽って潜入し、身代金の支払い、そして事件の解決を阻止すべし-相棒のオギルロイを伴い、偽外交官となったランクリンは、交渉の仲介役をつとめる謎の子爵夫人とともにオリエント急行の旅に出る。だが風雲急を告げる中近東の砂漠には、予想以上の罠が待ち構えていたのだ…。激動の時代に、誇りをもって生きる人々の熱き闘い。巨匠ギャビン・ライアルが、『スパイの誇り』『誇りへの決別』に続き、草創期の情報戦を鮮やかに描き出す、冒険スパイ小説シリーズ最新刊。
1913年、表面は平穏でもヨーロッパは戦争に向けて水面下で熾烈な駆け引きを操り返していた。なかでも、統一後いまだ政情が安定しないイタリアは危険な状態だった。外国の手に落ちている領土の奪回を求める急進派は、中央政府の思惑とは別に、様々な策をこらしていた…情報局にリクルートされて一年余、ランクリンとオギルロイはロンドンに戻り、新人教育や書類仕事で平穏に過ごしていた。だが、急進派のイタリア上院議員ファルコーネの警護を命じられたことで、平穏の日々は終わりを告げる。イタリアの失われた領土回復を叫ぶファルコーネは、軍のための兵器調達に飛び回っており、対立するセルビアやオーストリアに命を狙われているのだ。そんな彼が調達に躍起となっているのが、実用化されたばかりの飛行機だった。飛行技術の先進国であるイギリスに渡ってきたファルコーネを追い、危険な刺客も放たれているらしい。さっそくランクリンは一計を案じるが…激動止まぬヨーロッパを駆けめぐる、草創期のスパイたちの活躍。
本書の幕開きは1912年11月、バルカン半島では長く続いたトルコの支配が崩れるきっかけとなる第1次バルカン戦争が勃発し、その結果トルコはヨーロッパの領土の大半を放棄する。イギリス、フランス、ドイツ、ロシアなどの列強は、その空白をにらんで水面下での駆け引きを繰り返していた-巨匠ライアルの久久の新作。激動の歴史を動かした男たちの、謀略と闘いの日々。冒険小説の巨匠が描く、英国情報部草創期の活躍。渾身の新シリーズ開幕。
海上保険業者のボディガードを依頼されたカードは取引場所のフランスの田舎町に乗り込んだ。ところが一発の銃声が黄昏の静寂を引き裂き、カードの眼前で依頼人は事切れた。取引の目的は何だったのか?このまま引き下がってはプロとしての意地が許さない。次次と襲いかかる死の罠をくぐり抜け、謎の狙撃者を追う彼が暴き出した真相とは?パリ、ロンドンそして北欧の大自然を舞台に繰り広げられる巨匠会心の冒険小説。
美術品密輸業のギルバート・ケンプにとって、それは朝飯前の仕事だった。ニカラグアの女富豪が、ヨーロッパ各国で買い集めた名画を輸出規制のないスイスまで運び込んでくれというのだ。高価なセザンヌの絵を抱え、ケンプはさっそくチューリッヒへと向かった。ところが駅に到着するやいなや、何者かの襲撃を受け、不覚にも輸送中の絵を奪われてしまった。あまりにも手際のよい襲撃の背後に潜むものは何か?プロとしての意地をかけ、ケンプは見えざる敵へ反撃を開始した。冒険小説の雄が美術界の裏側に生きる男の闘いをスリリングに描く。