著者 : コーマック・マッカーシー
一九八〇年。ルイジアナ州の沖に小型飛行機が沈んだ。サルベージダイバーのボビー・ウェスタンは、海中の機内で九名の死者を確認する。だがブラックボックスがなくなっており、彼は十人目の乗客がいたのではないかと推測する。この奇妙な一件の後、彼の周囲を怪しい男たちがうろつきはじめる。徐々に居場所を失った彼は、追われるように各地を転々とする。テネシー州の故郷の家、メキシコ湾の海辺の小屋、雪に閉ざされた古い農家ー原爆の開発チームにいた父の影を振り払えないまま、そして亡き妹への思いを胸底に秘め、苦悶しながら。喪失と絶望を描き切ったアメリカ文学の巨匠、最後の二部作。妹の物語を綴る長篇『ステラ・マリス』と対をなす傑作。
一九七二年秋。二十歳のアリシア・ウェスタンは、自ら望んで精神科病棟へ入院する。医師に問われ、彼女は語る。異常な聡明さのため白眼視された子供時代。数学との出会い。物理と哲学。狂人の境界線。常に惹かれる死というものについて。そして家族ー原爆の開発チームにいた物理学者の父、早世した母、慈しんでくれた祖母について。唯一話したくないのは、今この場所に彼女が行き着いた理由である、兄ボビーのこと。静かな対話から孤高の魂の痛みと渇望が浮かび上がる、巨匠の遺作となる二部作完結篇。『通り過ぎゆく者』の裏面を描いた異色の対話篇。
近親相姦により赤子をもうけた兄と妹が、彷徨を重ね、行きついた先に見たものとは?アメリカ南部で極度の貧困にあえぎながら生きる人々の暗澹たる世界を寓意的に描く。現代アメリカ文学を代表する作家の長編第二作の初訳。
権力や法の支配を避け、社会の末端で暴力に晒されながらも生きる者たちの姿を描き出す。1930年代のテネシー州、アパラチア山脈南部を舞台とした、交差する三人の物語。現代アメリカ文学を代表する作家のデビュー作初訳。
19世紀半ばのアメリカ。14歳で家出した少年は、各地を放浪した末にグラントン大尉の率いるインディアン討伐隊に加わった。彼はそこで隊の一員である異形の大男、ホールデン判事を知る。戦争は神だーにこやかにそう述べる判事とともに、一行は荒野をわたり、暴虐の限りをつくす旅をつづけるが。美しく情け容赦のない世界とそこで生きる人々の生と死を冷徹な筆致で描き上げた、マッカーシー初期の代表作。