著者 : ジョゼ・サラマーゴ
左手を失った帰還兵バルタザールと不思議な力を持つブリムンダの愛の物語。 国王の修道院建立、飛行機の発明、天才音楽家などが紡ぐ驚きの空想物語。 ノーベル賞作家の最高傑作、新訳決定版。 ・ ・ ひときわ記憶に残る愛の物語。 重厚なオーケストラでフルートが残す余韻のように。 ーーニューヨーク・タイムズ ・ 予測不可能な要素に満ちた大胆な歴史ファンタジー。 ーーアーシュラ・K・ル=グウィン ・ ・ 【「訳者あとがき」より】 『修道院覚書』は、ジョゼ・サラマーゴにとっては四作目の長篇であり、十八世紀に建立された巨大なマフラ宮殿と修道院にまつわる史実を背景にした壮大な歴史ファンタジーである。歴史物語であると同時に、世界初の飛行船創作をめぐるマジカルな冒険譚でもあり、そして何よりも、深く愛し合う一組の男女の大恋愛の物語でもある。サラマーゴらしさがふんだんに盛り込まれているうえに、とにかくストーリーが抜群に面白い。数あるサラマーゴの傑作の中でも、本作は代表作の筆頭とされる一作である。 二〇一〇年にサラマーゴが亡くなった際、弔問に訪れたポルトガルの高名な思想家、エドゥアルド・ロウレンソは、彼の傍らに置いてほしいと一冊の本をサラマーゴの妻、ピラールに手渡した。[中略]ピラールは言う。「ジョゼ・サラマーゴは『修道院覚書』とともに火葬されたのです」と。 ・ ・ 【内容】 切望する世継ぎを得るために、修道院建立を誓願したジョアン五世とその王妃マリア・アナ。奇跡に事欠かない18世紀ポルトガルを舞台に繰り広げられる、壮大な歴史ファンタジー。スペイン継承戦争で左手首から先を失った元兵士バルタザール、不思議な瞳と透視能力をもつその妻ブリムンダ、空飛ぶ機械を製作するバルトロメウ・ロウレンソ神父、天才イタリア人作曲家のドメニコ・スカルラッティ……。王室と宗教、権力と異端、蔓延する疫病、富と貧困など、社会の諸相を描く壮大な物語から、魅力的な恋人たちが現れる。 ・ ・ 【著者略歴】 ジョゼ・サラマーゴ 1922年ポルトガル生まれ。現代ヨーロッパを代表する作家。82年、本書がヨーロッパ各国で高い評価を得る。95年、突然の失明が人々を襲う衝撃的な長篇『白の闇』が世界的ベストセラー。ほかに、『複製された男』(2002)、『見ること』(04)、『象の旅』(08)など。1998年ノーベル文学賞受賞。2010年没。
突然目が見えなくなる「白の闇」事件から4年後、首都の総選挙は土砂降りに見舞われる。午後4時になると人びとは投票所に押し寄せるが、7割以上が白票、再投票では白票が8割を超える。政府は非常事態宣言を発し、首都を封鎖する。政府組織が市外に脱出する一方、首都では市民たちの自治が始まるが、彼らを組織する首謀者は見えず地下鉄中央駅で大規模なテロが発生する。市民たちの平和的なデモ、地下鉄前広場での共同葬儀、権力維持と自己保身に走る閣僚たち…。やがて1通の手紙が大統領に届き、「白の闇」事件でみんなを勇気づけた優しい女性の捜査が始まる。傑作『白の闇』と対をなすノーベル賞作家による警鐘の書。
象は、大勢に拍手され、見物され、あっという間に忘れられるんです。 それが人生というものです。 ノーベル賞作家サラマーゴが最晩年に遺した、史実に基づく愛と皮肉なユーモアに満ちた作品。 1551年、ポルトガル国王はオーストリア大公の婚儀への祝いとして象を贈ることを決める。象遣いのスブッロは、重大な任務を受け象のソロモンの肩に乗ってリスボンを出発する。 嵐の地中海を渡り、冬のアルプスを越え、行く先々で出会う人々に驚きを与えながら、彼らはウィーンまでひたすら歩く。 時おり作家自身も顔をのぞかせて語られる、波乱万丈で壮大な旅。 「ささやかで不条理な奇跡の連続、諦念と温かさに満ちた深い知慮が引き起こす小さな笑い」 (アーシュラ・K・ル=グウィン) 「サラマーゴが、その人生の終わりに近くで書いた、愛嬌たっぷりの作品。『象の旅』は皮肉たっぷりで共感を豊かに誘う語りの中に、人間の本質についてのウィットに富んだ思索と、人間の尊厳を侮辱する権力者への揶揄を定期的に挟み込んでくる」(ロサンゼルス・タイムズ) 「サラマーゴは(……)この奇妙ながらも読み進めずにはいられない物語を紡いだ。サラマーゴがシュールで魅力的な散文の巨匠としてこれからも人々の記憶にのこるのはなぜか、この物語が完ぺきな例である」(GQ)
新年の始まり以降、この国ではだれも死ななくなった。高齢で衰弱する皇太后陛下、成功確実な自殺者、交通事故で十二分に息絶えたはずの人体、致命的な墜落事故…。死の活動停止を寿ぐ歓喜の高波の一方で、商売の材料を奪われた葬儀業界、死の不在によってベッドが不足する病院経営者、生と死の循環が滞る老人ホームなど、危機に陥る人々。国境の村では、生死の需要と供給を補うためにマーフィアが暗躍し、死を求める人々を国外に運びだす。悲喜こもごもの事態の中、テレビ局の会長の手元に紫色の封書が届く…。ノーベル賞作家による驚愕の思考小説。
ポルトガルのノーベル賞作家、ジョゼ・サラマーゴによる、みずからの少年時代の回想録。 圧倒的な言葉の奔流で紡がれる長大な物語ーーそれこそが「現代の語り部」サラマーゴのスタイルである。 しかし本書では、一転、そのはげしさは影をひそめ、ポルトガルの庶民生活の丹念な描写を通して、おだやかでやさしい、ときにはユーモラスな語り口で、幼なかったころの日々がつづられてゆく。 読みすすむうち、語り手の年齢も自分の年齢も消え、読者は、こども時代へとさかのぼる。いつしか手のなかに、小さいころ、道ばたで拾いあげた小石の感触すらもどってきそうな、小粒ながら、不思議な、知的で、品格のある魅力的な一冊だ。
いま、最も注目を集めているポルトガルを代表するノーベル賞作家サラマーゴが、詩人フェルナンド・ペソアの「異名」リカルド・レイスを主人公に、句点の少ない独特の文体で、暗い歴史の転換点ーーリスボンの1936年を描く問題の歴史心理小説!/「数あるサラマーゴの作品のうちでも特にこの小説に心惹かれたのは、リスボンへのサウダーデによるのかもしれません。小説や文献を読むときには地図を片手にという長年の習慣から、私にとっては、リスボンの町がふるさとのようになつかしいものになってしまっているようです。『リカルド・レイスの死の年』は、政治小説とも恋物語とも、いろいろな読み方が可能ですが、リスボンという町なしには成り立ち得なかったであろう小説と言えましょう。」(訳者あとがき)
ポルトガル語圏初のノーベル賞作家が独自の文体で描く異色作。孤独な戸籍係の奇妙な探求を通して、人間の尊厳を失った名も無き人の復活劇を描く! ●『あらゆる名前』は一見、この上なくシンプルなプロットの動きの少ない小説である。しかし、そのなかにはカフカに通じる官僚化する現代社会を見つめる視点や、人間と人間との関係について、そして背景には、やはり歴史的につくられたポルトガルの風景や言葉などがある。あるいは、あるひとりの人を追い求め人間の心の内を心理学的コンテクストで読むこともできるし、他人を求める人間という視点から、他者あっての自分を考える材料ともなり、ひとつひとつの出来事を社会学的視点から解読していくことも、また全体を包括する広い宇宙という観点から哲学的に楽しむこともできる。聞き手がどのような方向から、どのような距離からアプローチしても相応に答えてくれる小説と言える。