著者 : マーガレット・ウェイ
アラーナは大富豪ガイのことを心ひそかに“谷の領主”と呼んでいる。彼は由緒ある家に生まれ、この地で最も成功した人物。ずっと昔から憧れのヒーローだけれど、年上だし、なにより貧しい家に生まれ育った私とは境遇が全然違う。アラーナは自戒した。彼に恋なんかしてはだめ!傷つくだけだもの。一方、ガイのほうも、22歳のアラーナをいまだに子ども扱い。ところがある夜、ガイの主催するパーティでダンスに興じている最中に、彼が唐突に囁いた。「きみがまぶしすぎて、ぼくにはほかの女性が見えない」彼の真意を量りかねながらも、アラーナの心は舞い上がったが…。
苦学生の身で妊娠して実家を追い出されたジーナは、今は仕事に就き、太陽のように明るい3歳の息子と平凡ながら幸せに暮らしていた。息子の父親カル・マッケンドリックと出逢い、愛し合った4年前、ジーナは彼の叔母に身分をわきまえて身を引くよう諭され、別れを告げることもなく、彼の前からそっと姿を消した。それなのに今、突然カルが玄関前に現れ、ジーナは卒倒しそうになった。なぜカルがここに?もし親権争いになったりしたら、名門マッケンドリック一族の彼に太刀打ちできるはずがないわ!案の定、自分と同じエメラルド色の瞳の息子を見て、カルが冷たく言った。「どうやら話し合わなきゃいけないことがたくさんありそうだ」
身代が傾いたシャーロットの一族の屋敷を買い取ったのが、かつて愛を捧げた恋人ローハンと知り、彼女は打ちのめされた。シャーロットの兄が川で溺れて亡くなったあと、兄と一緒にいたローハンは責めを負って、追われるように町を出ていった。その彼が、幾年もの年月を経て今、大富豪となって再び彼女の前に現れた。「これはわたしへの仕返しなの、ローハン?」あまりの衝撃に気が遠くなり、その場に倒れ込んだシャーロットは、彼の強くたくましい腕に抱え上げられたことにも気づかなかった。ただ、ローハンに知られることが怖かったー7歳になる息子が、彼と同じブルーダイヤモンドのような瞳をしていることを…。
会社に勤めながら独りで息子を育てるケイトは目の前の顧客に愕然とした。第5代ウィンダム男爵ジュリアン。最初で最後の恋人。18歳の夏、ケイトはイギリスを旅行中に彼と恋に落ちたが、男爵位を継ぐジュリアンに彼女はふさわしくなく、彼の母親から本人も別れを望んでいると告げられ、失意のなか帰国した。彼の子を身ごもっているとわかったのは、2カ月後のことだった…。きっと今頃ジュリアンは貴族令嬢と結婚し、父親になっているでしょう。ときどきそんな思いに胸を痛めていたが、まさか今、再会するなんて!ああ、片時も忘れたことのない、愛しいジュリアン。だが彼はあの日のままの屈託のない笑みで囁いた。「はじめまして」
長い金髪を額でわけて腰まで垂らし、透き通るように白い肌。19世紀の絵画から抜けだしてきたような花屋のソーニャは、30歳以上も年上の富豪に見初められて、婚約間近だった。ところが晩餐会で見た、富豪の甥デイヴィッドに胸がざわつく。男らしい彫りの深い美貌が眩しく、心惹かれたのだ。だが身を落としているとはいえ、ソーニャは滅びた貴族の末裔で、誰にも言えないような、忌まわしい過去の呪縛に囚われている。しかも、デイヴィッドには財産目当ての女と嫌われていて…。私の愛は叶わぬ夢と、未練を断ち切るように彼女は目を伏せた。
訪れた異国の地で、ジェーンは導かれるように、貴族アレックスが統治する豪奢な屋敷に滞在することになった。人間不信で誰も愛せない、寡黙で美しい男アレックスが、人目も憚らず、熱い視線を注ぐので、ジェーンは怖い。寂しげに笑う彼の表情の陰りに、好きでもないのに、心ばかりか、体まで捕らわれてしまいそうで…。やがて遅すぎた恋の自覚に、後悔することになろうとも知らずに、彼女は未だ、“悪意”の存在に気づいていないのだった。ふたりを苦々しげに見つめる、不吉な影をまとった女性の存在に。
父を亡くし、天涯孤独となったスカイは打ちひしがれていた。頼みの綱の母方の祖父も、産後すぐに母が亡くなったせいで父を嫌い、その後、いっさいのかかわりを絶っていたのだ。それなのに今日、祖父の会社の重役だというガイが迎えに来た。猜疑心を抱きながらも、ガイの抗いがたい魅力に捕らわれて、スカイは祖父のもとへー上流階級の世界へといざなわれる。だが満たされた至福のなかに、いつしか暗い影が射す。いとことガイの婚約の噂を聞いて、スカイは気づいてしまう。知らぬ間に宿っていた、美しいガイへの仄かな思慕に。
これは周到に計画された、私への残酷な仕打ち?一族が代々暮らしてきた広大な屋敷を買い取ったのが、かつて愛を捧げた恋人ローハンだと知り、シャーロットは打ちのめされた。兄が川で亡くなったあと、母は心を病み、一緒にいたローハンは責任を感じて町を出た。そして、シャーロットは秘密を抱えたまま兄の友人と結婚した。やがて父が投資に失敗。夫も亡くなり、屋敷を売らざるを得なくなった。そんな辛い日々の中、息子のクリスだけが心の支えだった。シャーロットは怖かった。暴力的だった亡夫との結婚生活よりも、ローハンに、クリスの父親は自分だと知られることが…。
第五代ウィンダム男爵ジュリアン・アシュトン・カーライル。忘れもしない、ケイトの最初で最後の恋人だ。18歳だった。純粋な愛はすぐに二人を引き裂く悪意に巻き込まれ、身分違いだと思い知らされたケイトは、血を吐く思いで諦めた。きっと彼はもう伯爵令嬢と結婚し、子供もいるにちがいない…。つきまとう過去の痛みを、時は決して癒やしてくれない。ある朝、出社したケイトは言葉を失う。新しい顧客を紹介され、目の前に立っていたのはージュリアンだった。彼は屈託のない笑みを浮かべ、「はじめまして」と囁いた。
夫は、ケイトの妊娠を知らないまま交通事故で世を去った。結婚生活は夫の異常な嫉妬と貧困にあえぎ、地獄のようだったが、それから5年、ケイトは幼い息子を心の支えに生きてきた。ところが、ある日、弁護士を通じて、思いもしない知らせが届く。絶縁していた、裕福な夫の両親が会いたいと言ってきたのだ。息子を取り上げられるのではとケイトは怯えるが、現れた美貌の弁護士の顔を見て、思わず息をのんだ。彼もじっとケイトを見つめている。亡き夫にそっくりな目をして。それは夫が妬んでやまなかった、従兄のエイドリアンだった。