著者 : ルイ・クペールス
オランダの文豪が描き出す、日本の原風景 大正時代、五か月にわたって日本を旅したオランダを代表する世界的な作家が、各地で見聞・採集した民話・神話・伝承や絵画などから広げたイメージをもとに描いた物語、全30話。 著者没後100年記念出版! 浄福と慈悲の阿弥陀、高く伸びた茎の先に花を咲かせ、陽ざしを浴びてきらめく幾千もの蓮華の池を越えて、至福の涅槃(ねはん)に入ることをみずからは望まなかった阿弥陀、その阿弥陀が東の水平線の上に、あるいは高みから波打つように下方に向かう山々の広大な稜線の合間に姿を現わすとき、その両眼は、胸元は、指先は光り輝く。 そして、その光とともに首の周囲の〈慈悲の糸〉を摘(つま)みあげる。死後の世界に阿弥陀のそばへ寄るすべての者たち、たとえ、ちっぽけな、とるに足らぬ者であれ、今こうして、両眼に光輝をたたえたその姿を仰ぎ見るすべての者たちへ向けて。いかにちっぽけでとるに足らなくとも、苦難に満ちた現世の生を終えたすべての者たちがその糸をつかみ、胸にしかと抱くようにと、首に三重(みえ)に巻いた糸を持ち上げるのである。(本書「序奏」より) 序奏 第一話 女流歌人たち 第二話 岩塊 第三話 扇 第四話 蛍 第五話 草雲雀(くさひばり) 第六話 蟻 第七話 明かり障子 第八話 篠突く雨 第九話 野分のあとの百合 第十話 枯葉と松の葉 第十一話 鯉のいる池と滝 第十二話 着物 第十三話 花魁(おいらん)たち 第十四話 屏風 第十五話 ニシキとミカン 第十六話 歌麿の浮世絵 『青楼絵抄年中行事』下之巻より 第十七話 吉凶のおみくじ 第十八話 源平 第十九話 蚕 第二十話 狐たち 第二十一話 鏡 第二十二話 若き巡礼者 第二十三話 蛇乙女と梵鐘 第二十四話 波濤 第二十五話 審美眼の人 第二十六話 雲助 日本奇譚一 権八と小紫 激情の日本奇譚 日本奇譚二 雪の精 親孝行の日本奇譚 日本奇譚三 苦行者 智慧の日本奇譚 日本奇譚四 銀色にやわらかく昇りゆく月 憂愁の日本奇譚 訳者あとがき
長崎から神戸、京都、箱根、東京、そして日光へ。 東洋文化への深い理解と、美しきもの、弱きものへの慈しみの眼差しを湛えた、ときに厳しくも温かい、五か月間の日本紀行。 写真70点収録! 春はいまだ寒い。樟はその艶のある葉を震わせている。その葉を摘み、われわれは樟脳の香を確かめる。細く美しいーー日本のーー笹は、けば立ち少し波うったような、すこぶる長いダチョウの羽のように、束になって地面に密生し、岩の上に飾り物のような姿を見せている。藤ーーオランダ語で「青い雨」--は、いまだ黙したままだ。一世紀の間、身をよじらせてきた幹は、さらに螺旋を描いて伸び、その枝を蔓棚や東屋の棚に蛇のように絡ませ、最初の一葉、またそれが花房となるのを待ちながら裸身を晒している。そして、身を切るような風の中、今年初めての桃の花は、紫色に、身震いする小枝の間で、まき散らされ吹き飛ばされるかのごとく、幽く寒さに震えている。(…)それから、たいてい傍らに庭石を飾りに添えた盆栽のある庭がある。そしてわれわれにお辞儀をする女性たちは艶やかな髪を結い上げ、干し物をしている。(本書より) 序章 中国 第一章 長崎 第二章 長崎から神戸、京都へ 第三章 日本史入門 第四章 御所 第五章 桜の季節 第六章 黄金のパビリオン 第七章 木々 第八章 城 第九章 寺院 第十章 入院 第十一章 民間信仰 第十二章 病床 第十三章 スポーツ 第十四章 横浜へ 第十五章 箱根 第十六章 雨の憂鬱 第十七章 東洋美術 第十八章 『不如帰』 第十九章 詩心 第二十章 東京 第二十一章 泉岳寺 第二十二章 日光へ 第二十三章 自然の美 第二十四章 東照宮と地蔵 第二十五章 慈悲の糸 第二十六章 能舞台 第二十七章 文字 第二十八章 不夜城 第二十九章 錦絵 第三十章 帰郷 訳者あとがき