小説むすび | 著者 : ル・クレジオ

著者 : ル・クレジオ

ビトナ ソウルの空の下でビトナ ソウルの空の下で

田舎町に魚売りの娘として生まれ、ソウルにわび住まいする大学生ビトナは、病を得て外出もままならない裕福な女性に、自らが作り出したいくつもの物語を語り聞かせる役目を得る。少女の物語は、そして二人の関係は、どこに辿り着くのかーー。 ノーベル文学賞作家が描く人間の生。  サロメは「キティの話をしてよ!」と言い、「そのあとは、チョさんの鳩の話の続きをお願いね」と付け加える。  彼女はお茶をちびちびと飲む。左手が震え、右手はもう何の役にも立たないのか膝に置かれたままだ。サロメはわたしが目を凝らしているのを見てとり、ただこう言った、「これがわたしには何よりも受けいれにくいのよ」彼女はちょっと顔をゆがめて何かおもしろいことを言おうとするが、思いつかない。「毎日少しずつ死んでいくの、何かが去っていく、消えていく」  わたしは何も言わなかった、サロメのような人を慰めるのに言葉はいらない、憐れみもいらない。ただ、旅をさせるための物語があればいい。(本書より) わたしの名はビトナ。もうすぐ十八になる サロメに語られた最初の物話 二〇一六年四月 サロメは手を叩いた。目はきらきら光っていた そのころ、家の状況はさらにひどくなった サロメに語られた二つ目の物語 二〇一六年五月 午後もおそい時刻となり、日差しはもう しばらく前からサロメに会いにいっていなかった サロメに語られた三つ目の物語 二〇一六年七月 チョさんと鳩たちの物語の続き 二〇一六年八月 その話はここまで。今度はわたしの物語を話す時だ ある新米殺人者の物語 二〇一六年八月末 梅雨が突然到来して、豪雨が何度も街を通りすぎ しばらく前からサロメに会っていない、電話もしていない サロメに聴かせるチョさんの物語の結末 二〇一六年八月 梅雨のせいでサロメもわたしも疲れ果てた サロメに聴かせる女性歌手ナビの物語 二〇一六年九月 サロメに聴かせる二頭の龍の物語 二〇一六年十月末 1この日を境に、ナオミは二頭の〈龍〉のことをしきりに あのストーカーにまた会った こうした変わったできごとが次々と起きたあと レインボー橋を渡る、セヴランス病院にてサロメに聴かせる話 二〇一七年四月 わたしはビトナ、十九歳だ 訳者あとがき 語る、聴く、生きる

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