著者 : ロベルト・ボラーニョ
饒舌に隠された沈黙の謎 死の床で神父の脳裏に去来する青春の日々、文学の師との出会い、動乱の祖国チリ、軍政下の記憶……作家の死の3年前に刊行された、後期を代表する中篇小説。 語り手はチリ人の神父セバスティアン・ウルティア=ラクロワ。カトリックの一派オプス・デイに属し、詩人で文芸評論家でもある神父は、信仰心に篤く、心穏やかな日々を送っていた。ある日、突然「老いた若者」がやってきて、サンティアゴの家のドアをノックするまでは…… 「老いた若者」はウルティア=ラクロワにしか見えない存在らしく、かつての神父の「沈黙」を盛んに責め立て、罵倒する。ウルティア=ラクロワは自らの言葉にも、沈黙にも責任があると応じ、残された力を振り絞って必死の弁明を試みる。 熱に浮かされた神父の、ときに幻覚も入り交じる独白を通じて、祖国チリが辿った苦難の歴史が浮かび上がる。実在した文芸評論家に想を得た人物フェアウェル、ノーベル賞詩人パブロ・ネルーダらが登場、クーデターを率いた独裁者ピノチェト将軍と対面する戦慄の場面もあり、二度と戻ることのなかった祖国チリに寄せる作家のアンビバレントな思いが読者の胸に突き刺さる。
遺稿から発見された初期の重要作 ウド・ベルガーはウォーゲーム(戦争ゲーム)のドイツ・チャンピオン。恋人のインゲボルクと初めてのバカンスを共に過ごすため、カタルーニャの海岸地方を訪れた。ここで第二次世界大戦をモデルにしたゲーム〈第三帝国〉の新たな戦法についての記事を書こうとしている。 二人は近くのホテルに滞在中のドイツ人カップル、チャーリー(カール)とハンナと出会い、〈狼〉、〈子羊〉、〈火傷〉という地元の若者と知り合う。記事が捗らないまま日々が過ぎ、ある日、サーフィンの最中にチャーリーが行方不明になる。夏が終わりに近づくがチャーリーはいっこうに見つからず、ハンナ、そしてインゲボルクはドイツに帰国する。ウドはなおもホテルに留まり、ホテルのオーナー夫人、フラウ・エルゼに言い寄りながら、〈火傷〉を相手に〈第三帝国〉をプレイし続ける。ウド率いるドイツ軍の敗色が濃厚になるなか、現実を侵食しつつあるゲームの勝敗の行方は……。 1989年に書かれた本書は、作家の遺稿の中から発見され、2010年に刊行された。日記風の体裁や、現実と虚構の中で得体の知れない暴力や恐怖に追い詰められていく点で、後年の『野生の探偵たち』や『2666』の要素を先取りする初期の重要作。
軍政下のチリ、奇抜な空中詩パフォーマンスでその名を馳せた飛行詩人カルロス・ビーダー。複数の名をもつ彼の驚くべき生涯とはー。『アメリカ大陸のナチ文学』から飛び出したもうひとつの戦慄の物語。
インドから帰還した同性愛者のカメラマンの秘められた記憶、Bと父がアカプルコで過ごした奇妙な夏休み、元サッカー選手が語る、謎のチームメートとの思い出…貴重な自伝的エピソードも含む、「秘密の物語」の数々。心を震わす13の短篇。