著者 : 三浦朱門
武蔵野を題材にさまざまな明と暗を描く 「おい、日清戦争の前の年まで、今の東京都下は神奈川県だったのを知っているか。……都下という言い方、いかにも東京白人の発想だ。植民地扱いじゃないか」 関東大震災後に郊外に移ってきたサラリーマンの子・太田久雄は、武蔵野にルーツを持つ中学時代の友人たちからそう指摘される。彼らは自らを「武蔵野インディアン」と称し、地に足がついていおらず「紙とインクの世界しか知らない」都会の“白人”とは一線を画する存在だというのだーー。 武蔵野を題材に、都会と地方、戦前と戦後、保守と革新といった、さまざまなコントラストを見事に描出した珠玉作。
短編出世作と不倫の性を描いた代表長編小説 「冥府山水図」は己の絵の完成に生涯を賭した老画家の鬼気迫る執念と、到達点のない芸術の魔性を巧みに描き、”芥川の再来”とまで評された著者出世作の短篇。 東京山の手を舞台にした、広大な敷地に住む明治生まれの老父母、大正生まれの長男夫妻、昭和生まれの次男夫妻と、世代の異なる一族が繰り広げる赤裸々な人間模様を描いた「箱庭」は、一見平和で裕福に見える裏側に蠢く、性の衝動や空疎な関係性を生々しく描いた長篇意欲作。
戦後二十年、経済的にも物資的にも豊かになった日本社会。東京山の手を舞台に、一つの屋敷内に住む、父母、長男夫妻、次男夫妻の世代の異なる三カップルが繰り広げる悲喜劇。主人公の長男・木俣学と、弟・修の妻・百合子の情事をきっかけに、「箱庭のようにせまく、息苦しくそのくせ形だけはととのっている」家族が、ゆっくりと、静かに崩壊してゆく姿と、その荒涼とした心の風景を描く力作長篇小説。
公立高校の校長をしていた奏男は、50歳を過ぎて教え子の母親と駆け落ちし、職を失った。地方都市でひっそりと始めた私塾は、今までの教師生活では得られぬ充実した喜びを彼に与えてくれた(教師)。進学・ツッパリ・学習塾そして組合問題など、現在の教育が抱える問題を、教師の側から見据えた連作。