著者 : 中井ゆみ
ストラスナーン公爵は、十二年ぶりにスコットランドへ戻った。暴君の父に反抗して、十六歳で家出して以来の帰郷である。ロンドンでは国王の側近としてまた社交界の花形として注目されてきた。長年にわたる氏族同士の諍いにも無縁でいられたが、父の没後甥のトークィルが騒動を起こしたのだ。宿敵のキルクレイグ一族に囚われの身になった甥を救うべく公爵は、首長との会見に赴いた。その結果、彼の釈放と引きかえにキルクレイグの娘クローラとの縁談を承諾せざるを得ないはめになってしまう。
メリータはイギリスから船旅で独り未知のマルティニーク島へ渡った。父の死後、義母に遠方へ追い払われ家庭教師として働くことになったのだ。雇い主のヴェソンヌ伯爵は妻を亡くしその後、従姉のマダム・ブワセによって伯爵邸と農園の実権を握られていた。だが、メリータに勇気づけられた伯爵は奴隷たちの難問にも取り組み始める。そんな二人の様子に嫉妬するマダムは挑発や攻撃を仕かけ続けた。いがみ合う大人達に、伯爵の一人娘であるローズマリーも怯えていた。ある夜、森からの奇妙な太鼓に誘われたメリータは、秘密の儀式に遭遇する。
フランス革命で、ヴァレンス公爵は処刑。その衝撃から、愛人であった母も他界しセリッサは天崖孤独の境遇となる。そこで母の国イギリスへ戻ろうと決め、海峡横断の船でシェルドンに出会った。セリッサは、母とは別の生き方を望み裕福な貴族と結婚するという野心を抱く。その意図をシェルドンに明かし二人で計画を実行していくことになるがかれ自身にも、秘密の過去があった。決闘で、二度と故国の土を踏むまいと出国したので、ロンドンには戻れない。そこで、貴族の保養地であるバースへフランスの公爵令嬢を名のるセリッサの後見人として乗りこんでいくが…。
父のモレコーム侯爵の虐待に耐えかね、イヴォーナは母と共にフランスへ逃げた。ガンブワ伯爵の別荘での四年間の安息。だが、不虜の事故で母と伯爵は亡くなる。茫然とするイヴォーナの前に現れたのは父の弟、アーサー叔父だった。妻の訃報のショックで父もまた急死し、その代役として、後見人となったのだ。憎悪をつのらせた彼は、姪を強制的に厳格な修道院に閉じこめようとする。一度は自殺まで考えたイヴォーナだが修道院への道中、隙をみて逃げ出すと、髪を切り、男装して闇にまぎれこむ。凍える雪道で見つけた木こり小屋にはけがを負ったサンスール公爵がいた。
母の死後まもなく、カリータは大嫌いな義父から結婚を強要された。相手は財産家だが、初老の貫族である。意を決したカリータは家を出ると伯父のいるノーフォーク州を目ざした。その旅の途中で、偶然にも落馬事故を目撃し、必死で助けを求める。意識不明の男性は近所の農家に運ばれカリータも同行することになったが、二人は夫婦だと、女主人に勘違いされる。誤解をただしかけたカリータだったが、このまま夫婦を装っていたほうがひと晩の宿だけでも安心だと考え直し、あえて否定はしなかった。こうして、カリータの看護が始まった。
アスコット競馬場にほど近いラングストン荘園に、デルメザは兄ジェラードと住んでいる。競馬大会が近づいたある日、トレヴァーノン伯爵が館を借りたいと頼んできた。ジェラードは引き受けたものの、女性の噂が絶えない伯爵のこと、妹の身を案じ、デルメザに「秘密の隠し部屋」に隠れるよう厳命する。
ロンドンに帰る途中つかのま馬車をとめたステーヴァートン伯爵の前に若い娘が降り落ちてきた。娘の名はペトリナ、退屈な生活にすっかり嫌気がさして学校を脱走した、後見人は冷酷でまったく頼りにならない、という。しぶしぶペトリナを馬車に乗せた伯爵は、やがて自分がその「無責任な後見人」であることを知った。どうやら伯爵は、とんでもなくお転姿な被後見人を背負いこんだらしかった…。
継父が無理強いする結婚話から逃げるため、リーラは伯母を頼って海を越え、オランダに渡った。ところが、愛する伯母には会えたものの伯母は手術しなければ余命いくばくもない体のうえ、手術には莫大な費用が必要だった。そんな折、リーラの絵の才能に目をつけた画商が金になるという話を持ち込んできた。有名画家の絵を模写し、本物と称してとあるイギリス侯爵に渡せばいい、というのだが…。
キングズウッド公爵の目下の悩みは、いとこで後継人のリチャードが、社交界で浮名を流す女性に惑わされて婚約し、そのうえ、殺人事件までひきおこしたこと。そんなとき、公爵の前に現れたのは、旅の途中で病に倒れた牧師の娘、ベネディクタだった…。
1750年。ベニスへ向かう航海の途中、サンタ・ルチア号は嵐にのまれて岩場に激突、海の藻屑と消えた。たった2人の生存者-ハーヴェイ卿と、彼に助け出された美しい娘パオリナを残して…。父を亡くし、お金も行く当てもないパオリナに、自称冒険家のハーヴェイ卿は大胆な企てを告げる。パオリナを自分の妹に仕立て上げ、ベニスの社交界で玉の輿に乗せようというのだ。偽りの兄と妹の華やかで危険な人生の賭けが始まる。
親子ほど年の離れた州統監ストナーム卿との縁談に、レディ・アイオナは困り果て、一番心を寄せている乳母に相談しようと、家出した。しかし、大富豪ウルフ・レントン卿の家で働くことになっていた乳母は翌日、急死してしまう。
「ソエルディン候爵のもとに嫁ぐのだ」父、マドレスコート公爵の言葉に、レディ・ロレッタは当惑した。夫については、以前から夢に描いた理想像があった。それが、一度も会ったことのないフランス人の男性と結婚するなんて…。思い悩んだロレッタは身分を偽ってフランスへ渡り当の男性の人柄を見極めようと決意した。
ハリウッドの敏腕ディレクター、アシュリーは、ただ一つ、苦手なものがあった。それは子ども。2年間、アシュリーは、2人の子どもを持つ派手好きなディレクターと結婚していた。しかし、その子どもとそりが合わず、以来、子どもは一番の苦手となったのだ。ところが、今日のコマーシャル撮りはよりによって2歳の男の子。きっと言うことをきかず、泣きわめくにちがいない。しかし、その赤毛の男の子はまるで天使のよう。そしてその父親は…。服装にはかまわないものの、何か心惹かれるものがある。アシュリーの胸はときめいた。
ブルックは、研究機関WIWEの研究員。海外出張中の研究員、ミードの家の2階に住んでいる。ある夜、階下から響く奇妙な音楽で目をさました。家主のミードが、出張から戻ったようだ。ミードは民俗学の研究者で、世界各地をまわっていて、ブルックは、まだ会ったことがない。意を決してミードの部屋へ赴いたブルック。目の前に、現れたのは、ギリシャ神のようにたくましい体に、褐色の肌の魅力的な男だった。