著者 : 井埜利博
狂人の里狂人の里
栃木県と群馬県の県境にある奥日光。いろは坂、華厳の滝から中禅寺湖、さらに登って戦場ヶ原という日本が誇る美しい情景が続く日光国立公園。その奥の静かな湯ノ湖、休日にはトレッキングや釣り人などで賑わう。さらに湯ノ湖の先、金精峠を越え群馬県側に入るとまたいくつかの湖(丸沼、菅沼)が見えてくる。九月中旬には木々の葉は色づき始め、朝晩は息が白くなり冷えてくる。物語はその湯ノ湖で幼児の水死体が発見されるところから始まり、事件は金精峠を越えて群馬県側に…。
混沌混沌
二〇二×年一月、中国武漢で始まった新型コロナウイルス感染症は、全世界へ蔓延し、すさまじい程の死者数を出した。厚労省医系技官の中大路文也は、橋田内閣官房長官の命を受け、調査のため武漢国立ウイルス研究所に向かった。日本政府は、中国が生物兵器として新型コロナウイルスを作成したとの情報を得たからだ。中大路は、外務官僚の端本哲也と共に潜入調査し、中国国防部から研究所宛に生物兵器として新型コロナウイルス作成を命令する機密文書を入手した。その機密文書の情報を持って帰国した直後、中国人民解放軍海軍は、航空母艦遼寧艦隊を繰り出し、日本固有の領土である南鳥島へ侵攻し占領した。安蘇内閣総理大臣は、閣僚を集め緊急協議したが、結局、中国外務省に抗議するのみで憲法上の制約から武力行使できずにいた。その間、中国は、島の周囲を埋め立て、滑走路拡充、軍港建設、海域のレアメタル発掘などを急速に進めた。
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