著者 : 佐藤正彰
まずしい漁師がアッラーに祈りながら網を打つと、2匹の猿がかかった。その猿を使ってまた網を投げると、たくさんの魚がとれた。彼の前には次々と運が開けはじめる。そして…(「貧乏カリーフの物語」)。ほかに「黄色い若者の物語」「ハサン・アル・バスリの冒険」など、たくみな展開が楽しめるお話の数々。
ひげの濃い中年男と、すべすべした若い男とどちらが恋人として素敵なのか?二人の女がそれぞれの相手を自慢し合うが、さいごに、やはり中年男のほうがいいということになる話(「いずれを選ぶか。青年か、はたまた、壮年か」)。何百人もの人間や宮殿さえも入ってしまう袋の話(「不思議な袋」)など、艶ばなしや奇想天外な話にみちた一冊。
象さえも持ち上げるロク鳥、人をひと口で飲み込む大蛇などが登場し、奇想天外な物語に満ちた7回の航海がくりひろげられる「船乗りシンドバードの物語」。他に、美しい若者と少女が魔女とおりなす妖しい話「ブドゥール姫の物語」、奴隷の女と青年が不思議な道すじをたどった末に結ばれる「幸男と幸女の物語」などを収める。
孔雀の夫婦が旅をしていると、ガチョウが助けを求めて来た。イブン・アーダムというあやしい生き物から逃げて来たのだという。イブン・アーダムは獅子をもとり殺すほど怖ろしいものだ。その正体はいったいなんだろう?(「鳥獣佳話」)。そのほか、寓意にみちた話がいっぱい。
「おおご主人さま、あなたの恋の奴隷、あなたの眼に征服された男のほうに身をかがめて下さいませ…」。美少女を救ったガーネム。二人はたちまち恋におちるが、彼女はなぜか深くは許さない(「恋の奴隷ガーネムの物語」)。恋と冒険にみちた物語のいろいろ。
妻の裏切りに心を狂わせたシャハリヤール王は、一夜に一人の処女をはべらせたあげく殺していた。これに心痛めたシャハラザードは、みずから王のそばに上る。聡明な彼女の語る話のおもしろさに王は殺すことも忘れて聞き入り、ついに千一夜にたっしたときには、王の心は温く溶けていたのであった。あらゆる物語のなかで最も多くの驚きと不思議にみちた大ロマン。定評あるマルドリュス版からの名訳に適切な注を付す。