著者 : 加藤元
笑子は、20年前に知り合い、家族の反対をおして同棲するが、何度も浮気される。加寿枝は、高校時代に振られるが、職場で再会し、密かに慕いながら別の男と見合いする。史子は、バイト先で知り合い、家出後、彼の家に転がり込んでルームメイトとなる。佑菜は、入院中に声をかけられ、退院後に旨いうなぎ屋に連れて行ってもらう。ともえは、妹として育つが、実は兄ではなかった事実を中学の時に知らされる。「権藤佑市」をめぐる女たち。鰻屋「まつむら」を舞台に、ひとりの男がつなぐ五人の女たち。甘辛連作短編集。
コーポ中里ー。枇杷の木が茂る四階建ての古い鉄筋アパートには八世帯が暮らす。二十数年前、母子家庭の幼児が行方不明となった事件に、住人たちは誰もが口を閉ざす。苦しみを背負い、ひとり住まいのままこの世を去った女は、何を思い、どんな風に生きてきたのだろうか。家族の愛憎と、人間の身勝手さ、生きていくことのままならなさを描く、注目の作家「カトゲン」の、ざわめく新しい世界!!
激動の昭和初期、「銀幕の花嫁」と呼ばれる女優・木下千鶴は、清楚な外見とは裏腹に勃興期の映画業界で成功を収めていく。だが彼女には、少女時代に別れて以来、一度も会うことのない美しい異母妹がいた。大スタアの生涯から消えることのない十歳から十五歳のたった五年間の記憶とは。
あの日、ぼくは初めてあやめさんを食事に誘った。銀座の裏通りにある西洋料理店で「四月一日亭」という変わった名前のお店だった…。大正時代末期、日本が自由で穏やかだった時代。美味しい料理とともに、人々の悲喜こもごもが繰り広げられる。気鋭の作家が描く連作短編集。
満員電車でふと自分の手に触れた冷たい手。間違いなく、それは38歳で死んだ嫁の手だった。生前からちょっと変わったところのある女だった嫁が、どうしても伝えたかったこととは。表題作「嫁の遺言」の他、不器用だけれどあたたかい人情に溢れ、人間がいっそう愛おしく思えてくる注目女流作家の珠玉短編集。