著者 : 吉崎由紀子
1876年、ニューメキシコのベイヤード砦。騎兵隊中佐ステファンの妻、ハンナは軍人の妻たちの間でもその毅然とした美しさは際立っていた。しかしハンナはいま好奇と蔑みの眼に耐えながら生きていた。というのも数ヶ月前、アパッチに襲われ、捉われの身となっていたのだ。無事帰りついたものの、夫のステファンですら妻の醜聞を何とか隠そうとしつつ、「いったい、この女は何人のアパッチと…」とハンナを疑いの眼で見るのだった。2人の溝は日増しに深くなるばかりだが、そんな彼女に、いつしか心の支えとなっていったのは、騎兵隊のキャプテン、カッターだった。
ニューヨークのクリスマス・イブ。セントラル・パークは降りしきる雪におおわれ、静かなたたずまいを見せるが、いったん視線を通りに移すと、そこにはイブの興奪に湧きたつ巷がある。家族が、友人が、恋人たちが、愛と希望を抱いて微笑みかわす-そんな夜に、ひとりで街を歩いて車にはねられ、病院に収容された女がいた。女の身元が判明したとき、看護婦は驚きのあまり声も出なかった。有名な女流作家のダフネ・フィールズだったのだ。もっと驚いたことに、ダフネのもとに駆けつける人は誰もいなかった。家族も、友人も、恋人も-。うわ言で「マシュー、アンドリュー」とふたりの男性の名を呼ぶダフネ。物語は過去と現在をむすんで、ダフネの謎の私生活を綴っていく。
イギリス植民地時代のスリランカ。コーヒー園主の娘アレックサは、射撃と乗馬が得意なお転婆娘に育っていた。男性の目を常に意識するような、しとやかなレディになどなりたくもないアレックサだが、18歳の誕生日は明日にせまっていた。誕生日には、総督邸で開かれるパーティで、社交界にデビューすることになっている。しかし、夜になって美しい月が輝きはじめると、持ち前の冒険心が顔を出し、こっそり海へと抜け出した。ニンフのように波とたわむれるアレックサだったが、つかのまの夢をやぶるようにあらわれた見知らぬ男に、生まれて初めて唇を奪われてしまった。
夫、ジョン卿の死をきっかけに、ひとりロンドンへと旅立ったアレックサ。目的はただひとつ、母と自分を捨てさった実の父、ニューベリー侯爵とその母、アデリーナへの復讐だった。だが、実の娘とも知らず誘惑の手をのべてくるニューベリー、そして権力を握るためなら手段を選ばない母アデリーナの虚飾に満ちた姿に、アレックサは、憎しみと共に深い孤独をもおぼえるようになっていった。そんなある日、かつて激しい愛をかわしたあのニコラスが、突然アレックサの前にあらわれた。
平凡な人生を歩んできたランナ・マーシャル。彼女の運命はひとりの老人に出逢った日から、思いがけない方向にむこうことになった。彼の息子チャドとナバホ・インデイアンとの混血の私生児ホーク。まったく違う世界で生きてきたふたりの男に、同時に惹かれていくランナは、財産をめぐる家族同士の争いとうらぎりの罠にはまっていく。ランナの愛は?運命は…?広大なアリゾナの自然を背景に、ジャネット・デイリーが情熱を込めて書きあげた感動のロマンス長編。