著者 : 吉田育未
アイルランドの俊英詩人による、鮮烈な散文デビュー作。 18世紀に実在した詩人と著者自身の人生が入りまじる、新しいアイルランド文学。 「数年に一度の傑作。ジャンルや形式の明確な定義をことごとく消し去った」 《アイリッシュ・インディペンデント》 恋をした。その人は18世紀の詩人だったーー。 殺害された夫の死体を発見した貴婦人アイリーン・ドブ・ニコネル(18世紀アイルランドに実在)は、その血を手ですくって飲み、深い悲しみから哀歌(クイネ)を歌った。アイリーン・ドブの詩は何世紀にもわたって旅をし、3人の子どもと夫とともに暮らす、ある母親のもとにたどり着く。家事、育児、度重なる引っ越しの両立に疲れ果てた彼女は、自身の人生と共鳴するアイリーン・ドブの世界に夢中になり、やがて彼女の日常を詩が侵食し始めるーー。 他者の声を解放することで自らの声を発見していく過程を描き、《ニューヨーク・タイムズ》ほか各紙で話題となった、日記、哀歌、翻訳、詩人たちの人生が混交する、異色の散文作品(オートフィクション)。 ◎ジェイムズ・テイト・ブラック記念賞ほか受賞 ◎ラスボーンズ・フォリオ賞 最終候補 ◎「18世紀にアイルランド/イギリスで書かれた最高の詩」とも称される『アート・オレイリーのための哀歌』の全編訳付き
1918年、アイルランド・ダブリン。スペイン風邪のパンデミックと世界大戦で疲弊しきったこの街の病院に設けられた“産科/発熱”病室には、スペイン風邪に罹患した妊婦が隔離されていた。孤軍奮闘する看護師のジュリア・パワーのもとへやってきたのは、秘密を抱えたボランティアのブライディ・スウィーニーと、テロリストと疑われる医師のキャスリーン・リン。死がすぐそばで手招きする、急ごしらえの小さな一室で、彼女たちは生命の尊厳を守るために闘いつづけたー名手エマ・ドナヒュー(『部屋』)が描ききった、パンデミック・ケアギバー小説の金字塔。