著者 : 向谷匡史
「真の裏切り者」は誰だったのかーー。 本願寺はなぜ巨大な世俗権力との正面衝突に踏み切ったのか? 信長、秀吉、善住坊、そして光秀は何を望んでいたのか? 苛烈をきわめた宗教戦争の背後で交錯する異形の者たちの思惑と、 歴史に汚名を刻まれた智将の決断の裏に光をあてる傑作小説! 【本書より引用】 《「信長を殺めても解決にはならない」善住坊が静かな口調でいった。 「第二、第三の信長があらわれ、天下統一の前に立ちはだかる本願寺を攻めるだろう。そうさせないためには本願寺が決起し、織田氏を滅ぼすことで大名たちに力を見せつけておく必要がある」》 《信長が黙った。口元が怒りでわなないている。説得は無理か、と秀吉が観念しかけたときだった。「好きにせえ」吐き捨てると部屋からでていった。 秀吉は安堵する。自分が注進して光秀を蹴落としたーーそうみられるのは得策ではない。ふたりが重臣として覇を競っていることは周知のこと。失脚させるときは光秀を唾棄される存在に仕立てるのだ。ここはあわてず策を練るべしーーそれが秀吉の考えであった》 《明けて六月二日早暁ーー。 朝靄を切り裂くように鷺森本願寺の半鐘が乱打された。 「ご門主!」侍僧が顕如の居室に駆けこんで叫んだ。「織田軍の来襲でございます!」 顕如が布団を蹴ってとびおきた。雑賀鉄炮衆と激しい銃撃戦がはじまった。本願寺を明けわたしたではないか。なぜ信長が鷺森まで攻めてくるのだ。 本山が抹殺されるーー。ことの重大さにふるえながら、信長に信をおいた自分を呪った。 しばらくして銃声がやんだ。織田軍が引きあげていったという。》 第1章 遺文 第2章 宿願 第3章 岐路 第4章 標的 第5章 処断 第6章 犠牲 第7章 攻防 第8章 叛旗
安藤組外伝 THE SHIBUYA WAR 圧倒的ノンフィクションノベル 書き下ろし作品 戦後の渋谷の街を命を賭し、剛力を持って疾走した二人の男の「血を暴力」 ふたりはヤクザになろうと思って生まれてきたわけではない。 ヤクザになりたいと思ったわけでもない。 祖国のために、一命を捧げる覚悟の若者が時代に翻弄され、人生に懐疑し、変節に激しく抵抗し、気がついたらヤクザになっていた。 安藤は花形の凶暴性のなかに葛藤と純粋性を見抜き、花形は安藤に殉じることで男気を貫いた。 解散後の安藤さんについては、よくしられているとおりだ。ひょんなことから映画俳優に転じ、五十本以上の映画に主演して一時代を画す。俳優を引退して以後は映画プロデューサーとして、あるいは文筆家として多くの作品をのこし、二〇一五年十二月十六日、八十九歳で波乱の人生を閉じた。 私は自身の執筆活動のほか、安藤さんと立ち上げた安藤昇事務所(九門社)の“秘書役”として二十数年をいっしょに過ごし、安藤さんの著作や映画制作、ビジネスコーディネートなどに携わってきた。そんなことから花形敬については、安藤さんの口から、あるいは事務所に遊びにみえる元安藤組組員の方々から断片的に耳にしていた。(略) すでに鬼籍に入った古参組員が、こんなことを言った。 「安藤は花形がいなくても安藤だが、花形は安藤がいてこその花形だ」 花形が安藤組でなく別の組にいたなら、ただの粗暴なヤクザではなかったか。戦後史に語り継がれる安藤組の大幹部であり、安藤の留守に劣勢となった組を背負い、殺傷され、そして「伝説」として昇華した。 前々から、ふたりの半生を同時進行形にして「安藤と花形」を書いてみたかったが、このたび安藤さんの七回忌を期に、鎮魂の意味をこめ、小説の形でペンをとった。 後書きより 第一章 花の雨 対極の人生 少年院 名門中学 「昇へ」母の手紙 花形敬、青春の発露 予科練 日本がヤバイ 特攻命令 第二章 遠雷 弱肉強食 無法の時代 渋谷のステゴロ 男を売る ヤクザ戦国時代 安藤グループの跳躍 自分の眼力を信じる 「殺せ! 耳も鼻も落とせ! 」 渋谷の厄ネタ 第三章 風花 朝鮮特需 覚悟を磨く 「俺は、あの人に呑まれている」 潮目の時 これがヤクザの力だ 人斬りジムとの死闘 第四章 時雨 人生の不条理 拉致 男は命乞いしてまで生きてはいけない 怯える力道山 下剋上 蟻が巨象に挑む 花形が心を許す男 三船敏郎と酒 花形敬、撃たれる 第五章 疾雷 孤高と孤独 「安藤を怒らせたらヤバイよ横井さん」 弾く! 安藤ブランドの沽券 渋谷から安藤が消えた 第六章 花の雲 喰うか、喰われるか 前橋刑務所 迷走 安藤組VS東声会 花形敬、時代の終わり 「敬は信念に殉じたのでは」 “赤い汗”を弔う 時は止まらず 後書き
二人はともに裸一貫から金融ビジネスで一時代を築いた。それぞれの経営手法は社会から批判され、糾弾され続けた。融資を武器に会社を乗っ取り、担保を没収する手法は、江戸時代の昔から「悪徳高利貸し」として唾棄されてきた。それが日本人のメンタリティである。では、二人はなぜそれを承知で高利の街金ビジネスの世界に身を投じたのか。本書は、二人の怪物がいかにして頂点を極め、いかにして滑落していったかをノンフィクション・ノベルとして再構築したものである。