著者 : 堀辰雄
宮崎アニメにも多大なる影響を与えた 堀辰雄の初期ファンタジー傑作が、 読みやすい新仮名遣いによって甦る! 多くの人が『風立ちぬ』『美しい村』『菜穂子』などの サナトリウム文学を思い浮かべる 堀辰雄のイメージを一新するような、 モダンな姿で若者を魅了する東京浅草などを 舞台にした作品群の数々。 新興芸術派のひとりと目されていた堀の初期の作品には、 しばしば天使や妖精が出てくる。 空を飛ぶイメージと共に、水の中を漂い泳ぐイメージを 伴う作品も少なくない。 どちらにも軽やかな浮遊感があった。 堀辰雄の初期ファンタジーを彩る幸福感は、 現実と無関係ではなく、 むしろ現実の過酷さへの順応と防禦として 形作られたものだった。 「堀辰雄」のイメージを一新する、 静謐で摩訶不思議な浮遊感の世界に、浸ってみたい。 【収録作品】 「死の素描」 「羽ばたき Ein Märchen」 「鼠」 「ある朝」 「夕暮」 「風景」 「眠りながら」 「蝶」 「あいびき」 「土曜日」 「窓] 「ネクタイ難」 「ジゴンと僕」 「水族館」 「眠れる人」 「とらんぷ」 「Say it with Flowers」 「ヘリオトロープ」 「音楽のなかで」 「刺青した蝶」 「絵はがき」 「魔法のかかった丘」 解説 天使と妖精たちのモダニズム 長山靖生
今に伝えたい、時代を超えた普遍の愛の形 宮崎駿監督「風立ちぬ」が大ヒットし、再び注目を集める作家・堀辰雄。ぜひ若い人にも、映画を観るだけでなく、堀辰雄の愛にあふれる作品世界に触れて欲しいと、刊行しました。 この文庫に収録されている作品は、「風立ちぬ」と「菜穂子」。映画のモチーフとなった「風立ちぬ」の物語を楽しめると同時に、映画「風立ちぬ」の主人公の名前となった「菜穂子」という作品を併せて読める、他にはない文庫となっています。堀辰雄の作品世界のみならず、宮崎監督へ思いをはせながら読んでみるのは、いかがでしょうか。 カバーは、累計1200万部を誇る大ヒット漫画「僕等がいた」を執筆された小畑友紀氏にお願いし、堀辰雄の世界を美しく透明感溢れる、そして今までにない装画で飾ってくださっています。 明治、大正、昭和、平成という時代の流れは変わっても、人を愛するという気持ちに違いがないということ、誰かを守ることで、自分が守られ強くなれることを感じる作品です。どうして今、堀辰雄作品なのか、是非一度手に取って読んでみてください。 【編集担当からのおすすめ情報】 以前、読んだはずの「風立ちぬ」。今回、再読にもかかわらず新たな発見の連続でした。全体を取り巻く透明な空気感、一途な思い、文体も物語も登場人物もすべてひっくるめて、2人といない堀辰雄という作家の溢れんばかりの才能を感じます。そして、この本を刊行するにあたり、初めて読んだ「菜穂子」。「風立ちぬ」と、全く違う作品世界が繰り広げられています。この二つの作品と小畑友紀さんのカバー、新しい堀辰雄の世界を感じて欲しいです。
その年、私は療養中の恋人・節子に付き添い、高原のサナトリウムで過ごしていた。山の自然の静かなうつろい、だが節子は次第に弱々しくなってゆく……死を見つめる恋人たちを描いた表題作のほか、五篇を収録。