著者 : 多田和博
狂熱の80年代なかば、米国の投資銀行は最先端の金融技術を駆使し、莫大な利益を稼ぎ出していた。旧態依然とした邦銀を飛び出してウォール街の投資銀行に身を投じた桂木は、変化にとまどいながらも成長を重ねる。一匹狼の日本人起業家に翻弄されながら進めてきた買収案件に調印する寸前、世界を揺るがす金融不安が…。虚々実々の駆け引きから、複雑な取引の仕組みまで、投資銀行業務をガラス張りにした経済小説の金字塔。
ウォール街での実績を買われた桂木は東京のM&Aチームに移り、多くの買収案件を成功に導く。一方、“伝説のトレーダー”ソロモンの竜神宗一は、金融工学を駆使して日本の証券市場に旋風を巻き起こす。バブル崩壊後、危険なデリバティブ商品が横行する中、米国投資銀行の幹部となった桂木は、一つの志を抱き、新たな世界へと転進する。世界金融の激変期を、圧倒的なリアリティと迫真の筆致で描ききった、俊英の代表作。
“窓際族”という会社に飼いならされた生活を送る哀川真也は、謎の美女・巨勢玲子との出逢いで運命が一変する。哀川は玲子から誘われ、借金地獄やストーカー被害などで苦しむ人々を救う組織「アネックス」に参加した。彼はその活動の中で生きることへの情熱を取り戻していった。だが、「アネックス」が某独裁国からの亡命少女を匿ったことで事態は急変、哀川はメンバー共々過酷な状況に陥っていくー。己に眠る野性を解き放ち、男は大切なものを守り抜くことができるのか。人間の本質に深く踏み込んだ森村ワールドの大河巨編。
一九四五年八月十五日、日本が無条件降伏を受け入れたその日、ソ連は北海道占領作戦を発令した。北千島の小島に侵攻を開始したソ連軍の圧倒的な兵力を前に、本土帰還の望みを砕かれた日本軍将兵たちの孤独で困難な戦いが始まる。一方、米国に調停を求めるため、密使はマッカーサーの許に飛んだ。祖国分断の危機を回避すべく、太平洋戦争最後の戦いに身を挺した人々の壮絶な運命を描く戦史小説。
精神科医の榊は美貌の十七歳の少女・亜左美を患者として持つことになった。亜左美は敏感に周囲の人間関係を読み取り、治療スタッフの心理をズタズタに振りまわす。榊は「境界例」との疑いを強め、厳しい姿勢で対処しようと決めた。しかし、女性臨床心理士である広瀬は「解離性同一性障害(DID)」の可能性を指摘し、榊と対立する。一歩先も見えない暗闇の中、広瀬を通して衝撃の事実が知らされる…。正常と異常の境界とは、「治す」ということとはどういうことなのか?七年の歳月をかけて、かつてない繊細さで描き出す、魂たちのささやき。
田舎から憧れと野心を抱き東京へと降り立つ終着駅・新宿。見知らぬ男女、宮地杏子、浅川真、軍司弘之は同じ電車で巡り会い、新宿駅へと降り立った。二年後、浅川が新宿の高層ホテルで殺害され、軍司も失踪してしまう。さらなる犯罪が起こる中、捜査陣がたどり着いた容疑者には、犯行時間に密室にいた完璧なアリバイがあった。捜査は難航を極めるが、意外なところに事件を解くカギがあった。五件の犯行が複雑に絡み合い、事件は二転三転としていく。展開の罠を見事に張り巡らした、著者の記念碑的作品。
1937年7月、北京郊外で軍事衝突が発生。戦火はたちまち広がり、日中両国は全面的な戦争に突入した。帝国海軍航空隊の麻生哲郎は勇んで中国へと向かい、アメリカ人飛行士デニス・ワイルドは中国義勇航空隊の一員として出撃する。上海、南京、漢口、重慶。長江上空に展開する戦闘機乗りたちの熱き戦い。やがてふたりはお互いを、名前を持った敵として意識するようになった…。中国の大空を翔けた男たちの勇姿を見事に謳いあげた航空冒険小説。