著者 : 岩城けい
父の転勤にともない12歳でオーストラリアに移住し、現地の大学生となった安藤真人。憧れていたはずの演劇の道ではなく就職を選ぼうとしていたところ、マリオネットを制作しているアビーと出会い、人形劇の世界に誘われる。日本人としてのアイデンティティの問題に苦しんできた真人のように、「同じアルメニア人と結婚を」と刷り込まれてきたアビーもまた、出自について葛藤を抱えていた。互いを知りたい、相手に触れたい。しかし、境遇が似通うからこそ、抱える背景の微妙な差が、猛烈な「分かりあえなさ」を生み…。話題の既刊『Masato』『Matt』につらなる、「アンドウマサト三部作」最終章!
“Speak English!”ちゃんとしゃべって。メグが大声でそう叫び、崇は口封じのひとことに動けなくなった。今まで、このひとことを何度叫ばれたことだろう。言いがかりをつけてくる客、雇用斡旋所の係員、そして、通りすがりの見知らぬ他人…。しかし、娘のそれには大人が口にするときの悪意は皆無だった。そこにはただ、純粋な懇願だけがあった。その奥底には、意志疎通を求め、会話を、言葉を欲しがっている小さな女の子と、やもめ男ののっぴきならぬ事情と、彼ら親子のただならぬ状況が横たわっていた。叫んだあと、メグはトーチャン、トーチャン、トーチャン、と甘えたようにすり寄ってきた。英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぐ言葉と音楽の物語。
イギリス系の夫、イタリア系の妻ー移民の国オーストラリアに暮らす倦怠期の夫婦のもとに、日本人女子学生がホームステイにやってくる。異文化ギャップに軋む家族に、再生はあるのか?『さようなら、オレンジ』著者、書下ろし新作!
少年たちの心を切り裂き、また、成長へと導くものとは。世界の広さを痛感させる青春小説。オーストラリアに移住してはや5年。安藤真人は、現地の名門校、ワトソン・カレッジの10年生になっていた。Matt(マット・A)として学校に馴染み、演劇に打ち込み、言語の壁も異文化での混乱も、乗り越えられるように思えた。しかし、同じMattを名乗る転校生、マシュー・ウッドフォード(マット・W)がやってきたことで、真人ーマット・A-は、自らの“アイデンティテイ”と向き合うことになる。
「スシ!スシ!スシ!」いじめっ子エイダンがまた絡んでくるー。親の仕事の都合でオーストラリアに移った少年・真人。言葉や文化の壁に衝突しては、悔しい思いをする毎日だ。それでも少しずつ自分の居場所を見出し、ある日、感じる。「ぼくは、ここにいてもいいんだ」と。ところがそれは、母親との断絶の始まりだった…。異国での少年と家族の成長を描いた第32回坪田譲治文学賞受賞作。
オーストラリアのローランド・ベイ・グラマー・スクールに通うショーンは、大好きな祖母と離れてはじめてのジャパン・トリップへ。ステイ先の和菓子職人のオトーチャン・オカーチャンに優しくされて日本を満喫するショーンだけど、秘めた目的を達成するために大事件を起こしてしまう!一方、引率として久しぶりに故郷・日本へ帰ってきた山中光太朗は、様子のおかしい女子生徒・ハイリーのことが気がかりでー。
オーストラリアに流れてきたアフリカ難民サリマは、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。人間としての尊厳と“言葉”を取り戻し異郷で逞しく生きる主人公の姿を描いて、大きな感動をよんだ話題作。第8回大江健三郎賞、第29回太宰治賞受賞。