著者 : 岩本道子
加奈子が名門の横沢家に嫁いできてから五年の月日が流れていた。家柄が違うといって義父はいつまでも加奈子を認めようとしないが、夫、淳一と四歳になる愛らしい政伸がいれば、幸福だった。しかし、アメリカから淳一の妹、茜が帰国したその日から、加奈子の運命は少しずつ狂いはじめる。妻と夫のあいだに微妙に芽生える不信感と背徳の香。父を巻きこみ、息子を巻きこみ、遠い昔に男と出奔した母を巻きこみ、人の心の変化のなかで、加奈子は翻弄された。結婚とは、愛情とは、男と女とは、加奈子の想いは揺れる…。
エリート銀行マンの父とは違う生き方をめざしてカネ正食品に就職したものの、社会の風は厳しい。ひとくせもふたくせもある上司や、要領のいい同僚に囲まれ、まるで見知らぬ世界に迷いこんだかのように右往左往する主人公の西条浩介。そんな出来の悪い息子を、父として、先輩サラリーマンとして蔭ながら心配しつつも、企業戦士として、派閥によるサラリーマンの悲哀を味わう浩一郎。テレビCMをうてる自社製品の開発を夢見る加藤松郎社長のもと、新米サラリーマンの汗と涙と笑いの日々が始まった。
盛田聖子の誘惑や罠に翻弄されながらも、酒井史朗と妙子はようやく、真実の愛に生きる覚悟を決めた。しかし、聖子の史朗に対する情念の炎は消えない。炎は嵐となって、酒井家の人々をつぎつぎと不幸に陥れていく。史朗の幸せだけを願い、沈黙を守りつづけてきた妙子だったが、史朗を破滅させようとする邪悪の前に、自らを投げ出して闘う決心をした。愛と憎しみの狭間で妙子の命を賭けた復讐劇が始まる…。
著名な精神医学者・酒井俊太郎教授の家で「兄と妹」として育てられてきた、史朗と養女の妙子。二人が互いの深い愛に気づいたのは、史朗が研修医として通う医科大の看護学科に妙子の入学が決まった頃だった。しかし、それは誰にも悟られてはならない禁断の愛。そんな二人の前に、大物代議士の娘・盛田聖子が現われ、強大な父の権力を背に、史朗に恋の炎を燃やす。そして、妙子を慕いつづける、史朗の親友・信吾。火のように熱いそれぞれの想いのなかで、やがて、おぞましい秘密の暴かれる日が…。