小説むすび | 著者 : 押川典昭

著者 : 押川典昭

プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代(下)プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代(下)

出版社

めこん

発売日

2025年8月28日 発売

ジャンル

過酷な労働と理不尽な暴力が支配する流刑地ブル島に一〇年あまりつながれた作家は、参照すべき資料もなく、渾身の歴史小説を書き上げた。プラムディヤの世界的な評価を決定づけた『人間の大地』四部作である。それはどのように書かれ、どのように島から持ち出されたのか。独裁政権によるたび重なる発禁を受けながら、小説は、どのように読まれ、国境を越え、いかにして世界文学となったのか。政治権力とのあやうい緊張に身をさらしながら、ペンを武器として闘い抜いた作家の姿を描く。 プラムディヤが流刑先であの大河小説「ブル島四部作」を書いたという伝説がある。 その詳細をこの本で知ることができた。やはり偉大な人物であったと感動する。 それと同時に、本国にもまだない細密な伝記が日本人の手で書かれたことにも感動する。池澤夏樹(帯より) 第五章 政変まで 一九六〇年ー一九六五年 『インドネシアの華僑』と二度目の逮捕投獄 スカルノと「指導される民主主義」 アジア・アフリカ作家会議執行委員会 「ルンテラ」編集人になる 歴史家・文学史家として 「ニャイ物語」の世界 自然としてのジャワ語、意志としてのインドネシア語 『わたしをカルティニとだけ呼んで』と『浜の娘』 「伐採する=一掃する」という攻撃的修辞法 ハムカ作『ファン・デル・ウェイク号の沈没』の剽窃問題をめぐって 『サストラ』文学賞拒否問題とH・B・ヤシン批判 「社会主義リアリズムとインドネシア文学」 「文化宣言」をめぐって 革命的文学芸術会議 文学教育について 短編「ハンマーおじさん」など 破局の前夜 第六章 三たび政治囚として 一九六五年ー一九七九年 三度目の逮捕投獄 九月三〇日事件 「国家の敵」となる サレンバ特別拘置所 happy land somewhere--ヌサカンバンガンからブル島へ 流刑地ブル島 「凧揚げをするように」 執筆許可ーースミトロ司令官との対話 大統領の手紙 ブル島で書く 滅びの物語『逆流』 『人間の大地』--「歴史を再想像する」 「元従軍慰安婦」の記録とメモワール B級政治囚の釈放 政治囚釈放をめぐる国際関係 最後の船で 第七章 強権に確執を醸す 一九八〇年ー二〇〇六年 ETというパーリア ハスタ・ミトラ社と『人間の大地』 発禁をめぐって ブル島四部作はいかに読まれ、あるいは攻撃されたか 『ある啞者の孤独の歌』 正史を相対化する物語 家族基金 かたくなな夫、無関心な父 マグサイサイ賞をめぐって スハルト独裁の崩壊のあとで 民主人民党 栄誉と反撥と 「わたしはネルソン・マンデラではない」--謝罪と和解をめぐって ハシム・ラフマン、ユスフ・イサクとの別れ 第八章 エピローグ 怒りに身を焼かれて 最期のとき ふたたび、最初に戦場に立つ者 あとがき プラムディヤ作品リスト 事項索引 人名索引 略語一覧 写真引用一覧 参考文献と資料 プラムディヤ・アナンタ・トゥール略年譜

人間の大地 上人間の大地 上

『人間の大地』は、1969年から10年間流刑地ブル島に勾留され、表現手段を奪われたプラムディヤが、同房の政治犯にそのストーリを日夜語って聞かせたという、途方もないスケールの4部策の第1部である。舞台は1898年から1918年にかけてのオランダ領東インドで、インドネシア民族が覚醒し、自己を確立していく長い闘いを描いた、これはいわばインドネシア近代史再構成の物語といえよう。 1980年、同書が発行されると、インドネシアの人々は熱狂してこれをたたえ、初版1万部が12日間で売れるという空前の評判を呼んだ。当時の副大統領アダム・マリクは、彼らの親や祖父たちがいかに植民地主義に敢然と立ち向かったかを理解するために、この『人間の大地』を読むよう若い世代に奨励すべきである、との推薦の辞をよせ、またある評者は、この本はこれまでに出たすべての歴史書の存在を無意味にしてしまうとまで激賞した。 余りの影響力に驚いたインドネシア政府は本書『人間の大地』第2部『すべての民族の子』第3部『足跡』を発禁処分とし、現在もその処分は解けていない。しかし、海外での評価は高まるばかりで、世界各国で翻訳発行されており、昨年1998年もノーベル賞候補に挙がっている。

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