著者 : 斉藤健一
人でありながら、神の子であったイエス=キリスト。数々の奇跡を起こし、そして人間の罪を負って十字架にかけられたイエスの生涯を、われわれと同じ、ひとりの人間の生涯として描いた本書は、神を求め、その声を聞くことができない悲しみや、信仰に迷いながらも、貧しい者の中に希望を見いだそうとするイエスの姿を鮮やかに甦らせる。ここには、神話の中にではなく、われわれの心の中に息づくイエスがいる。
激動のうちに20世紀も暮れようとするなか、フランスの大富豪ピエール・ベナック男爵は私財を投じて国際科学オリンピックを開催した。アルプス山中のリゾートタウンは一躍、全世界のすぐれた頭脳を集めた科学の祭典の場となる。しかし、ある朝聖火台の炎に焼かれている科学者の死体が発見されるにおよんで、この世紀の大イベントは恐怖と迷信と死の交錯するおどろおどろしい悪夢に変貌するのだった。つぎつぎに起こる殺人事件。その残虐な手口と満月の夜に限られた犯行から、狼男への恐怖がつのっていく。そんななかで、アメリカから天才的素人探偵が事件解決に赴く。『ホッグ連続殺人』いらい、ひさびさのベイネデイッティ教授の登場である。
ジェラルドとジョージは一見仲の良い双子の兄弟。一心同体とも言うべき2人は家族の宝であり、皆のアイドルだった。しかし、長年消息の途絶えていた弟のジョージが突然姿を現わしたとき、兄のジェラルドは再会の喜びよりもあるうとましさを覚える。ジェラルドは一週間の約束で家を弟に明け渡すが、帰宅した彼を待ちうけていたものは。『ワールズ・エンド』『モスキート・コースト』『0=ゾーン』の鬼才ポール・セローが、双子の兄弟のひそかな近親憎悪が引きおこす謎の怪事件を描いたサスペンスロマン。
南アフリカ北西部のとある閑静な漁村。この平和な土地にある犯罪者を追って圧政者イネス署長が乗りこんできたことから、物語は意外な展開を遂げていく。-漂流者や流れ者などさまざまな人々のるつぼのような架空の村を舞台に繰り広げられる、魔術的リアリズムに満ちた異色小説。
ある朝、ドクター・ベックはぼくを呼び止めると、いつもの穏やかな声でいった。「ケニー、例のきみのグループに新人が入ることになったよ」。アイルランドの鬱蒼とした森の中にひっそりと建つ精神病院。そこにガヴィンという謎めいた患者が現われた日から、不可解な事件が連続して起こり、ついに陰惨な殺人に発展する。荒涼たる雰囲気が全篇に充ち溢れたミステリーロマン。