著者 : 新島進
新訳完訳「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」第三回配本。 元祖ヴァーチャルアイドルと見えない花嫁……。本巻では、東欧を舞台にしたゴシック小説的幻想味あふれる後期の傑作二篇を収録。「カルパチアの城」はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」に先立つこと五年、吸血鬼伝説の本場トランシルヴァニアを舞台に推敲を重ねた自信作。ホフマン、ポーやルルーの「オペラ座の怪人」などを好む方々には特におすすめの完訳版。レオン・ブネットの挿画40枚収録。 「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」は、H・G・ウェルズ「透明人間」の向こうを張ってヴェルヌが書いた透明人間もの。本作は息子のミシェル・ヴェルヌが書き換えた版(未訳)が長く読まれてきたが、今回がジュール・ヴェルヌのオリジナル版本邦初訳となる。唖然呆然の最終章のみ、ミシェル・ヴェルヌ版を併録した。 二作ともに、不在の女性への狂恋が物語を貫いており、美しきヴォーカロイドとも言うべきラ・スティラを追い求める二人の男(「カルパチアの城」)、完璧な令嬢ミラへの倒錯的愛に身を捧げるヴィルヘルム・シュトーリッツの、身の毛もよだつ透明人間ストーカーなど、さまざまな意味で現在に直結する「〈独身者機械〉小説」(新島進)であり、ヴェルヌの最も21世紀的な小説。面白さ抜群の二篇を練り上げられた訳文と詳細な註を付して贈る。 カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 ミシェル・ヴェルヌ版第一九章 訳註 解説 石橋正孝 訳者あとがき 細目次
16世紀中国、明王朝末期、ときの皇帝、正徳帝は暗殺を恐れて、四人の影武者を引き連れて、すべての行動を行なっていた。「五札の君」と呼ばれる彼らは、帝とその完璧な複製であり、皇后や側近でさえ、見分けがつかないほどであった。ある日、帝の寵愛する天文学者が新星を発見する。学者によると、この星は国の破滅の前兆を示しているという。先帝に倣い、都を離れて凶星の消失を待つことにした帝は、南方へ狩猟の旅に出発する。帝ら五札の君を乗せた巨大な船には、三百人の宮女を娼婦にした色街が再現されており、道中「孔子の空中曲芸」なる奇妙な行為が行なわれていた。その行為を行なっているのは帝なのか、それとも、影武者なのか…?パリ在住中国人作家の著者が、明王朝滅亡の要因をつくったとされる第11代皇帝の人生を、虚実ないまぜて描いた艶笑譚。
老婆がその長い沈黙を破ったとき一族の知られざる秘密が明かされる-南イタリア、灼熱の太陽のもと、呪われた宿命に抗って果敢に生きるスコルタ家5世代にわたる波瀾の物語。ゴンクール賞受賞。ジャン・ジオノ賞審査員賞も同時受賞の話題作。
四川省成都。莫は留学先のパリで、夢を解釈するフロイト派精神分析学を学び、故国に戻ったばかりの、心の医師。彼は、大学時代片想いをしていて、今は政治犯として投獄されている女性・胡〓(フーツアン)を釈放してもらうため、法曹界の影の実力者・狄判事のもとを訪れる。賄賂で解決しようとする莫に、判事はある条件に適う女性を用意できたなら、胡〓(フーツアン)を放免すると告げる。だが、広大な国土を誇る中国のこと。莫は終わることのない夢分析の旅に出る羽目に…。フランス在住中国人の著者が、自らの分身とも言うべき精神分析医の旅路を、瑞々しい筆致で描いた長篇第二作。フェミナ賞受賞。
医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として山奥で再教育を受けることになった。厳しい労働にもめげず、僕らは仕立屋の美しい娘に恋をした。僕らは禁書のバルザックを手に入れ、その小説世界に夢中になった。親友の羅はバルザックの語る壮大な冒険を、哀しい恋の物語を娘に読み聞かせ、ふたりは親密になっていくが…。文化大革命の嵐が吹き荒れる中国を舞台に、在仏中国人作家がみずからの体験をもとに綴る青春小説。
文化大改革の嵐が吹き荒れる1971年、医者を親に持つ僕と羅は、反革命分子の子として再教育のため山奥深くに送りこまれた。僕は17歳、羅は18歳だった。厳しい労働に明け暮れるなか、僕らは村に唯一ある仕立屋の美しい娘、小裁縫に恋をした。あるとき僕らは、いまや禁書となっている西欧の小説を友人が隠し持っていることを知る。壮大な愛や冒険の物語に僕らはすっかり夢中になり、これに刺激を受けた羅は、小裁縫にバルザックの小説を語り聞かせる。二人は次第に親密になっていくが、本によって自分たちの運命が大きく変わってしまうとは知らなかった…。在仏中国人作家が自らの青年時代の体験をもとに綴り、世界30カ国で翻訳された話題作。